時代を映す高校生の感性にあふれた応募作品が多数入賞
2012年12 月2 日、「第16回全国高校生創作コンテスト」(國學院大學・高校生新聞社主催)の表彰式が同大学渋谷キャンパスで行われた。応募総数は12,704作。受賞者の作品は、10代の等身大の情感あふれる世界に満ちていた。
表彰式に先立ち、永年短歌部門の審査員を務め、先日逝去された歌人・成瀬有先生に黙とうが捧げられた。表彰式では赤井益久学長が挨拶に立ち、「それぞれジャンルは異なるが、日本語を探求した成果。今後も日本語へのまなざしを持ち続けてほしい。」と受賞者にエールを送った。
短篇小説の部で審査を務めた北村薫先生は、「私はこれを目指している、という強い意志とあふれる若さが伺える作品が選ばれている。」と全体を評した。 現代詩の部については、西岡光秋氏が「詩を書くということは、心の奥底にある言葉を文字にすること。詩のある人生を忘れずに続けてほしい。」と語りかけた。
短歌の部は成瀬先生が師事した岡野弘彦先生による講評となった。「自分の中から湧き上がってくる気持ちを文語で表現するといい。文語と口語、2つの違った言葉を使える人になってほしい。」と短歌との付き合い方をアドバイスした。
俳句の部では、佐川広治先生が「1000年に一度と言われる大災害に関する俳句が3分の1ほど集まった。」と作品の傾向についてふれた。
同コンテストが生まれて16年。携帯小説の人気や活字離れなど、文学を取り巻く事情は激変したが、10代の感性は今も生き生きと時代を映し、創作という形で表現されていることを実感する表彰式だった。
各部門の受賞作品の概要は下記の通り
短編小説の部 最優秀賞の松本昴之君(埼玉県立蕨高校2年)の「ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ」は、主人公以外の人間がゴリラの姿になる。疎外感の中、ようやくゴリラとなれた主人公だが、安堵もつかの間、周りはヤギに……。 「主人公が変身する話はけっこうありますが、逆に周りが変わっていくとどうなるかと思って」と松本君。今後もジャンルを限定せずに、幅広い創作活動に取り組みたいと話す。 優秀賞の1人、今井静月さん(神奈川県・横浜市立東高校3 年)の「立待月」は、江戸を舞台にした恋愛ストーリー。今井さんは、文芸・創作に関係する仕事に就きたいとまっすぐな瞳で夢を語ってくれた。
現代詩の部 最優秀賞の南部有枝さん(神奈川県立麻生高校2 年)の詩「三十六度五分」は、きれいな手だねとほめてくれた、祖母の優しさをモチーフにした詩。時を重ねるごとに刻まれたしわが、その人生の重みと美しさ、温もりを語ってくれることを表現したタイトルの付け方は秀逸だ。 中村祐梨香さん(広島・広島文教女子大附属高校3年)は、「壁にぶつかった時の気持ちを何かに入れたら」と考え作詩。ボトルに入った金平糖に気持ちをなぞらえた繊細な詩で優秀賞に選ばれた。
短歌の部 最優秀賞の中島康大君(長崎県立諌早農業高校2 年)は、福島の原発事故で迷走する日本、苦しむ人々について詠んだ。諌早農業高校から3人の入賞者を出した国語科の坂本博先生は、授業に短歌を取り入れ、地元の新聞にも投稿させるなど力を入れている。その結果2011年度には、3人の生徒が全国大会で最高賞を受賞するなどの成果をあげた。
俳句の部 最優秀賞の國分大朗君(福島県立会津高校1年)の俳句もまた、福島の原発事故を意識した作品だ。一見きれいに見えても、実は放射能に汚染されている土壌を、月の明るさと暗闇にまぎれる地面との対比を使って表現した。