記者の質問に答える大西卓哉宇宙飛行士(7月19日、JAXA東京事務所の中継)

 

国際宇宙ステーション(ISS)への滞在を始めた大西卓哉宇宙飛行士は7月19日、宇宙航空研究開発機構 (JAXA)東京事務所と通信回線で結んだ記者会見に臨んだ。「宇宙飛行士の仕事は地上の研究者の手足となること」と宇宙実験への意気込みを語り、子どもたちには「宇宙の素晴らしさを伝えたい」と笑顔を見せた。会見の一問一答は次の通り。

正直言うと不便、でも「面白い場所」

──初めに一言を。

日本のみなさん、こんばんは。7月7日の打ち上げの際には本当に多くの方から応援していただき、それが力になりました。ありがとうございます。

7月9日にISSに(ソユーズ宇宙船が)ドッキングし、約10日間が経ちました。その間に宇宙環境に(体が)適応しました。

ISSで生活をしていると、宇宙環境は本当に特殊だと感じます。例えば、物がどんどん浮いていってしまって、探すのに360度見渡さなければいけません。体の移動も安定しないので、必ず足を2カ所に固定して仕事をする必要があります。そういった宇宙独特の仕事のコツをこの10日間で身に付けられたのは良かったと思っています。効率を上げて仕事をしていきたい。

──(ISSへ向かうために使った)ソユーズ宇宙船の乗り心地は?

ソユーズ宇宙船はとても小さいのですが、初めての無重力空間に慣れる上で、その狭さがむしろ快適でした。2日間のISSへの旅は快適に過ごすことができました。

──ISSの住み心地は?

最初の印象は、正直に言うといろいろと不便です。地上の生活に比べると美味しいご飯も食べられませんし、シャワーも浴びられません。でも、地球という素晴らしい景色だったり、無重力という環境だったり、ここにしかないものがたくさんある「とても面白い場所」だというのが、この10日間での感想です。

地球の美しさ 初めて感じた

──ISSから地球を見て第一印象は?

地球は本当にきれいです。私はソユーズ宇宙船で(地球を回る)軌道に入った時、宇宙船がたまたまさかさまになっていたので、窓からはずっと青い光景が見えていました。「そういうものなのかな」と地上にいる昼間の感覚でいたのですが、ふとその青いのは全部「海」だと気づきました。ちょっと体を起こして下のほうを見てみたら、漆黒の宇宙空間が広がっていて。その黒と青のコントラストで地球の美しさを初めて感じました。

地球の美しさよりも、ISSの大きな実験施設を地上から400キロ上空に建造した「人間の科学力」に対する感動のほうがむしろ大きかった。

寝癖の心配なし!

──地球が恋しくなったか?

幸い地球が恋しくなることはまだないですね。

──地球にいる時よりも宇宙の方が最も快適だと思う点は。

ふわふわ浮いていられるのは、慣れてくると、とても快適です。例えば、地上では寝癖がひどくて、いつも直していかなければならないのですが、(宇宙では)寝癖の心配は全くないですし、快適です。

──反対に不便だと感じる点は。

いくつかありますが、特徴的なのはトイレです。トイレに行く時には心構えをしなければなりませんし、(もし)トイレが壊れると一大事。ISSとしても非常に大きな問題になってしまいます。

なぜかすぐ満腹になってしまう

──宇宙に行くと視力が変化すると聞く。見え方で変化は?

視力や物の見え方の変化はまだ実感として何もないですね。目に関して言えば、とても充血しやすい。ホコリやゴミが空中を漂っているので、その中を(自分自身が)飛んでいくと、目に入りやすいのだと思います。

──体に起こった予想外の変化は?

いろいろな体の変化がありましたが、食欲がなくなったのはしばらく続きました。食べたものが胃の中で浮いているからでしょうか、すぐ満腹になってしまう感覚があります。お腹が空きにくいというのは意外でした。

膨大な労力かけた宇宙実験 成果に貢献したい

──忙しいか?

プログレス宇宙船が無事ドッキングしました。それから明日(7月20日)の昼には、米国のドラゴン宇宙船がやってきます。先週はそうした宇宙船を迎える準備で忙しかったです。今週はドラゴン宇宙船を安全につかまえたり、新しい実験機器が届いたり、かなり忙しくなります。私たちにとっては充実した時間になると思います。

すべての実験に関して言えることですが、宇宙実験は地上の研究者が長い時間と膨大な労力をかけて準備してきています。研究者の方々の代わりに手となり足となり、目となり耳となり鼻となって実験して、何か気付いたことがあれば地上に知らせる。それが私たち宇宙飛行士の大事な仕事だと思っています。

研究者の方々が良い成果を出せるように、私も宇宙飛行士として(宇宙で)しっかりと仕事をして貢献できたら、という意気込みでいます。

ロボットアームの大きさに驚き

──ロボットアームを動かしてみてどう感じたか。

ロボットアームをISSで見た時にその大きさに驚きました。地上のシミュレーターで訓練している時は、どうしてもコンピュータグラフィックスでしか見ていないので、(地上にいた時は)大きさの実感がありませんでした。

ISSに来ると、(ロボットアームの)先端だけでも1.5メートルもあります。その巨大なアームが自分の操縦によって手足のように動く感覚にすごく感動しました。

ロボットアームの動きが安定していてやりやすい。アームを動かすのに緊張したので、実際に「こうのとり」のような補給船をつかまえる時には、そのプレッシャーをどう克服していくのかが鍵になるのかなと思いました。

──SNSでロボットアームを初めて操作した時に人気アニメ「機動戦士ガンダム」のセリフ「コイツ動くぞ!」と叫んだと紹介していた。その気持ちは?

もともとガンダムに限らず、宇宙物のアニメや漫画が好きで、そういったセリフはいくつか頭に入っています。あのセリフは狙ったわけでもなく、素で出ていましたね。

夢が叶いうれしい

──宇宙での有人調査の意味は。

無人ではできないことが必ずあると思います。例えばISSでいろいろな宇宙実験を行っていますが、人間の手で実験装置を制御して作業する必要もありますし、人間の体自体が実験の対象になっています。

──子どもたちへメッセージを。

「宇宙に行く」という子どものころからの夢が叶って素直にうれしいです。夢だった宇宙という職場で、宇宙飛行士という仕事をして、宇宙の素晴らしさをみなさんにいろいろな形でお伝えできたらなと思っています。

──最後に一言。

ISSという素晴らしい職場でバリバリ仕事をして、地上のみなさまに実験の成果を還元できるように、地上に良い成果を持って帰れるように、しっかりと仕事をしていきます。ぜひ応援よろしくお願いします。

 記者会見に参加した高校生記者から 

大西卓哉宇宙飛行士の会見の中で印象に残っているのは、「地球の海の青と宇宙の暗黒のコントラストが美しい。しかし宇宙にISSという建造物を建てた人間の科学力に感動した」という言葉だ。青い地球、暗黒な空間、ISS、それぞれを単独で見ても美しいと感じるだろう。しかし、3つが同じ空間にあることでコントラストが生まれ、より魅力を引き出している。人間の手が加わっていない自然的なものと、人間の手によってできた人工的なものが合わさり、初めて生まれる美しさや魅力もあるのだと感じた。

(前田黎)