人々の健康を守る仕事がしたいと考える高校生は多いだろう。現代の医療は高い専門性を持つ多くの人々によって支えられている。
(木和田志乃)
医療スタッフが連携して、治療に当たる「チーム医療」
近年、医学・医療の発展により、難病といわれた疾患も克服できるようになり、人類の平均寿命も次第に伸びてきた。反面、診断技術や治療は高度で複雑になり、医師1人だけでは多様な情報を総合して判断することが難しくなっている。そのため、医療現場ではさまざまな職種がそれぞれの専門性を発揮して対等に連携し、情報と意見を交換しながら一人ひとりの患者に最善の治療およびケアの実現を目指す「チーム医療」が主流になってきた。
チームは医師をはじめ、看護師や保健師、診療放射線技師や臨床検査技師、理学療法士といった医療技術者、介護福祉士、薬剤師、管理栄養士など患者の状況に合わせてさまざまな職種で構成される。すでにチーム医療は病院内だけでなく、診療所や保健所、訪問看護ステーションなど、地域ぐるみでも実践されるようになってきている。
例えば患者が安全で自立した日常生活を送れるように、座る、立つ、歩くなど基本動作能力の回復や障害の悪化を防ぐためのサポートをする理学療法士が、ソーシャルワーカーやケアマネージャーと連携して住宅環境を整えたり、臨床検査技師が検査データからわかる栄養や全身状態などの情報を提供し、栄養士と協力して患者の栄養管理に携わるなど、多様な取り組みが行われている。
医療スタッフに求められる専門性とコミュニケーション能力
残念なことに不注意から重大な医療事故が起きることも少なくない。医療スタッフの仕事は、患者の生命に関わるものであるため、専門性の高い知識やスキル、責任感はもちろんのこと、患者の安全や秘密を守りつつ常に患者中心の立場に立って治療に当たる姿勢が求められる。また近年、病気を治すだけではなく、患者と家族のQOL(クオリティ・オブ・ライフ、生活の質)の維持・向上を重視したケアが行われているが、患者の個性や生活を知って信頼関係を築くためにも、また他の医療スタッフとの連携を深めてよりよい医療を提供するためにも積極的なコミュニケーションが欠かせない。さらに、医療の進歩は早く、先端医療についていくために研さんを積んで最新の知識や技術を習得していく向上心も不可欠だ。
加えてチーム医療に積極的に参加し、互いに尊重しあって適切な行動をし、後輩を指導することも求められるなど、医療の高度化に伴い、医療スタッフに求められる資質はますます増えるだろう。
医療の高度化を支える基礎研究
医療の高度化を支えているのは医療スタッフだけではない。ここでは基礎研究の分野で日本人が大きな貢献をしてきた例を紹介しよう。
1889年には北里柴三郎が破傷風菌の純粋培養に成功、さらにその毒素に対する免疫抗体を発見して血清療法を確立した。今年度ノーベル生理学・医学賞受賞の大村智北里大学特別栄誉教授が開発に寄与した寄生虫による風土病の治療薬イベルメクチンはアフリカなどで無償供与され、年間3億人を失明の恐怖から救っている。また、山中伸弥京都大学教授のグループは、2007年、ヒトの皮膚細胞からさまざまな細胞へと分化できる人工多能性幹細胞(iPS細胞)を生成する技術の樹立に成功、2012年の同賞受賞につながった。昨年には初めての臨床試験としてiPS細胞から作られた目の網膜細胞の移植手術が行われるなど、これまで手立てがなかった病気やけがの治療に道を開くと期待されている。
また、手術用ロボットなどの医療機器開発に携わる工学分野の研究者や医療機器を扱う臨床工学技士など、現代の医療の進歩は多くの人たちが担っている。