切れば切るほど増える生物がいるのを知ってるかな? プラナリアっていうんだ。川の上流などに住んでいる3 ~ 5㍉の小さな生物。平べったくて脊椎や手足もないけど、脳や腸管などを持つ立派な生き物だ。つぶらな瞳も、ちょっとかわいいよね。

例えば一匹のプラナリアをカッターで切り分けてみると、1 ~2週間ほどで、断片それぞれに一つの脳と二つの目などが現れ、切った数だけのプラナリアに増えるんだ。一匹を100以上に切り分けても、全ての断片が一匹のプラナリアとして再生した実験結果もあるそうだよ。

この秘密を握っているのが幹細胞だ。幹細胞とは、臓器の元になったり組織を再生する能力を持つ特別な細胞のこと。この幹細胞の能力が、人間とプラナリアでは大きく違うんだ。

人間の場合、皮膚の幹細胞は皮膚に、骨の幹細胞は骨にしかならない。一方、プラナリアの場合は、1種類の幹細胞が脳にも目にもなれると考えられている。しかもプラナリアの幹細胞の数は、全細胞の10%と非常に多い。どんなに細かく切り分けたとしても、断片には高い確率で幹細胞が存在しているから、どんどん増え続けるというわけだね。

ノーベル賞で注目を集めるiPS細胞は、どんな種類の細胞にも変化できるものとして再生医療の分野で期待されている。プラナリアの幹細胞を探求すれば、ノーベル賞も夢じゃないかもしれないぞ。 (山口佳子)

●取材協力 杉山友康先生(東京工科大学 応用生物学部教授) 博士(工学) 遺伝子工学のアプローチから生活や医療の質を高める技術を追究。プラナリアの他、がん細胞などの研究を行っている。