エースも主砲も選手全員が地元出身、監督も地元出身の古豪、兵庫・明石野球部が甲子園へ向かう心に火をつけた。春の県大会では、3試合連続で延長戦を経験、その後の近畿大会では守備で超ビッグプレーが飛び出すなど熱戦を展開。春を経て、チャンス到来の風が吹いている。 ( 文・写真 宇佐見英治)

一塁コーチスボックスに立つ澤田達夢内野手(3年)=兵庫・岩岡中出身=はそのとき、「背中に吹奏楽とかの熱い声援を強く感じていた」という。今年5月、明石公園内の明石トーカロ球場。春の近畿大会。

この球場は夏の兵庫大会の舞台であり、毎年8月の全国高校軟式野球選手権の会場となる。そして何より、明石高校のホームグラウンドといってもいい場所。近年なかなか超えられなかった県ベスト8を、この春は加古川北との延長14回に及ぶ大接戦を3-2のサヨナラ勝ちで突破した。準決勝の報徳学園戦は延長13回で5-6の惜敗。3位決定戦は現在、県内最強とも見られる社を延長10回、3-2で下し近畿大会出場を決めていた。

明高生は、明石市13中学と神戸市の西の中学出身者で占める「地元の子」だ。副将で4番、投手も務める福山大貴捕手(3年)=同・枦谷中出身=は「実に地元意識が強い」という。この春の近畿大会は、兵庫以外の2府3県の優勝校と、開催地の兵庫から3校が出場。福山は「県大会は『3位までに入るためには、ここをこう戦って……』というように計画ができました。兵庫県開催という巡り合わせや運はよかったと思います」と振り返る。

地元の期待は大きかった。近畿大会初戦の智弁和歌山戦1回表の守りでは、無死一、二塁からトリプルプレーが飛び出した。相手がヒットエンドランを仕掛け、打球は二塁手の定位置後方への小飛球。これを川原健吾二塁手(3年)=同・魚住東中出身=が背走し好捕。二-遊-一と転送され、二塁走者と一塁走者が塁に戻れなかった。チーム初のビッグプレーを機に7-2で快勝。川原は「強豪と名高い智弁和歌山と対等な気持ちで戦えたことは大きかった。次の大阪桐蔭には(1-4で)敗れましたが、しっかり試合できたと思います」と、自分たちの変化を感じた。

希望の夏へ。福山は「春は幸運もありました。しかし、運も実力のうち、といいますし、何より冬のしんどい練習など、やることをやってきたからだと思っています」と言い切った。