奈良柚弥(ゆうや)さんと八田伊織さん(青森・木造高校3年)は、「りんご農家の負担を軽減したい」と、AIを使って大きさを選別できるシステムを開発した。「つがるブランド」を守り、次世代にも続く農業への道を切り開くためにどのような工夫を重ねたのか。(文・黒澤真紀、写真・学校提供)
AIでりんごを5段階に選別
2人が開発したのは、AIによってりんごの大きさをA~Eの5等級に判別できる果樹選別システム。使い方はいたって簡単で、りんごを白い箱の中に入れると、カメラがりんごを認識する。マイクロコンピューターが、撮影したりんごの大きさをこれまでに学習したりんごのデータをもとに判別。パソコンの画面に等級を表示する仕組みだ。
「私たちが作ったのはりんごの『大きさ』を判別するシステムです」(奈良さん)
通常、収穫したりんごは品種ごとの特性に合わせて管理し、市場価値を決めたり、販売戦略を立てたりする。その際、りんごは色、形、大きさ、キズの有無、肌ざわりなどの基準によって判別される。2人はさまざまな基準のうち「大きさ」に注目し、選別システムの開発に挑んだ。
低コストでの活用目指す
現状、りんごの大きさや色などをもとにした選別は、主に手作業で行われている。膨大な時間と労力が必要で、基準の統一が難しいため、品質が不均一になる場合もある。経験と熟練が求められる作業なので、人材の確保も一苦労だ。大きな農家は業者に依頼できるが、りんご農家の多くは中小規模なので、コストを考えると手作業にならざるを得ない。
その点、この選別システムは低コストで設置でき、持ち運びもできる。「りんごをカメラで撮影するだけでよいので、時間もコストも削減できます」(奈良さん)。作業者の負担が軽減され、仕事の生産性、効率性が向上することが期待される。
スマート農業の実態調査を実施
2人は同校情報システム系列コースに在籍していて、1年生のときから同じクラスだ。3年生の4月から、課題研究として「低コストで導入可能なスマート農業システム」をテーマに選別システムの開発に取り組んだ。
スマート農業とは、AIやロボットといった先端技術を活用した農業のことだ。同県の五所川原農林高校と連携し、地域のスマート農業の実態調査を実施。りんごの選別にコストがかかることや、後継者不足の問題があることを知ったことがきっかけとなった。
約650個のりんごを撮影
9月には青森県産業技術センターを見学した。「システムを実際に使うのは農家さん。職員の方から、AIシステムはとても便利だが、農家さんの生の声を聞くことが大切だと言われたのが印象に残っている」(奈良さん)
10月、AIに学習させるりんごの画像を撮影するため、収穫を終えたばかりの五所川原農林高校に出向き協力を依頼。2人で合計3時間半ほどかけて約650個のりんごを撮影し、AIに学習させた。
そこから学習させたデータをもとに、りんごを5等級に判別するためのプログラムの開発を進め、12月には市内のりんご農家に向けて報告会を行った。「報告会では、農家さんから『ほかの果物などにも応用してほしい』と言われてうれしかった。『近隣の農家にも協力してもらうといい』とアドバイスもいただきました」(奈良さん)
後輩に引き継ぎ精度向上へ
システムの完成に達成感がありながらも、課題があるという。「現状、りんごの大きさの正答率は 65%。実用化には 95% 以上が必要なので、画像を650枚から1100枚に増やすなどしていきたい」(奈良さん)。今後は1学年下の後輩が引き継ぎ、研究を進めていく予定だ。
「今回、本格的なプログラミングに初めて挑戦した。専門用語がわからず、調べながら進めるのがとても難しかった。先行研究で参考にさせていただいたきゅうり農家の小池誠さんにオンラインで質問したり、何時間もかけて調べたりして進めました」(奈良さん)
「先生からのアドバイスをかみ砕いて理解し、実行するのが難しかった。本やインターネットを駆使して、納得いくまで調べました」(八田さん)
「故郷に貢献したい」
春からは、それぞれ新しい道に進む。奈良さんは大学に進学し、情報学を学ぶ。「卒業後は青森県産業技術センターでプログラマーとして働きたい。故郷に貢献したい」と笑顔を見せる。八田さんは専門学校に進学予定で、「ゲームクリエイターになりたいので、本格的にプログラミングを学びたい」と話す。
「システム開発を通じて、故郷の産業の役に立ててうれしい」と語る2人。「この経験で自分がやりたいことが見えてきたので、これからも進んだ道でがんばりたい」と話してくれた。