過去最多の1600作品の応募
高い志と文章力を兼ね備えた入賞者たち

「現代の志塾」多摩大学が主催する第5回「私の志」小論文コンテストの表彰式がこのほど行われた。応募は過去最多となる1600編。そのなかから高い志と文章力の両方が評価されて選ばれた入賞者が多摩キャンパスに集まった。

「私の志」小論文コンテスト実行委員長を務める、経営情報学部の樋口裕一教授は、「しっかりと社会に貢献することによって自己実現しようという意志、それこそが志です」という。全国の高校生がこうした「志」を持ったり明確にしたりする機会にしてほしいと始まったこのコンテストは、着実に広まりを見せ、5回目となる今回は第1回と比べて5倍近くの応募があった。そして10名の教員により厳正な審査が行われ、入賞者が決まった。

表彰式では、樋口教授が講評を行った。「このコンテストは、書くのも審査も難しい。志を持っているのと同時に、社会的な分析もでき、なおかつ表現力もある。こういう別の要素を兼ね備えるのはなかなか難しいのですが、ぜひ兼ね備えていただきたい。なぜかというと、志を持って社会に向かって何かをするのは、自分を見つめ直し、社会を見つめることで、分析そして自己表現が必要となるからです」と説明。そして「その点、みなさんは両方兼ね備えており、本当に甲乙つけがたかった。みなさん素晴らしく、将来が頼もしいです」と入賞者を称えた。その後、各入賞者に表彰状が授与され、一人ずつ喜びの感想を述べた。

長崎を「最後の被爆地」であり続けさせるという志が最優秀賞に

最優秀賞に選ばれたのは、長崎県佐世保市在住の坂口舞さん(九州文化学園高校3年)で、タイトルは「最後が最後であり続けるために」。被爆者の祖父から戦争や原爆の話をよく聞いていた坂口さん。長崎は広島ほどの認知度はないが、同じ被爆地として「負の遺産」を後世に伝え、世界に平和を発信していく義務があると感じた。そして長崎を「最後の被爆地」であり続けさせるという志を小論文にまとめた。坂口さんは長崎の遺産をユネスコの「メモリー・オブ・ザ・ワールド」に登録しようと、SNSを通じて実際に行動も開始。志の内容や表現力に加え、「すでに実行しているのは素晴らしい」と、審査員が高く評価した。

「文章は何度も書き直しましたが、受賞できてとてもうれしいです」と話す坂口さん。将来は日本語教師となり、負の遺産も合わせて日本の文化を世界に伝えていきたいと考えている。

優秀賞は谷川春菜さん(横浜雙葉高校2年)の「私と考古学」。考古学者になるというのが夢だが、それと同時に「自分のルーツはどこにあるのか。自分とは何者なのか」といった、人間にとって大切な問いを考えるうえで歴史の研究は欠かせないものという社会分析も小論文に盛り込んだ。谷川さんは「どの時代の歴史も好きで選べないんです」と生き生きした表情で話し、近い将来、発掘作業もしていきたいと願っている。

もう1人、優秀賞を受賞したのは有賀萌さん(大妻高校1年)。「『他者』と向きあう幸せ」というタイトルで、看護師になりたいと思ったきっかけをつづった。障がいを持って生まれ、5時間後に亡くなった叔母の子ども。その子の生と死に向き合った経験によって、有賀さんが成長し、志を深く持つようになったことが伝わってくる。

紛争地で活躍する医師を目指すなど社会貢献したい  内容も明確

佳作や入選に選ばれた生徒たちも、同様に高い志を持つ。ある生徒は医師になるのが夢。国境なき医師団に参加して、紛争地で活躍したいと考えている。また、小学生のころから検事になりたいと考える生徒や、2歳のときから習っている日本舞踊を広く伝えたいという志を持った生徒、過疎化となった地元の集落を変えていきたいと思う生徒もいた。

このように、入賞した生徒たちは社会との接点を具体的に考えている。審査員のひとり、副学長の諸橋正幸教授(経営情報学部)は「今年の入賞者は例年以上にとても質が高かった」ととても評価している。ただし、入賞者は全員、女子生徒。樋口教授は「応募作品を読むと、自分を見つめ直す力が男子生徒のほうが少し弱いように思う。もうちょっと男子生徒もがんばってほしい」と来年度に期待している。