「あの子は痩せてていいなあ」。特に10代は周りと体型を比べがちだ。摂食障害と聞くと、「私は無関係」と思うかもしれないが、ささいなきっかけで誰でも発症する可能性がある。摂食障害の危険について、日本摂食障害協会理事の作田亮一先生に話を聞いた。(黒澤真紀)

太る不安で食事制限、生理も止まり…

高校生2年生のもちさん(仮名)は、コロナ禍に摂食障害を経験した。体力を維持するため、YouTubeで始めた「宅トレ」をするたびに「痩せる、美ボディー、減食、減量」の文字が目に入ってしまう。「気づけば、痩せないときれいになれない、何キロ体重を落とせたかしか考えられなくなってしまいました」

もちさんが使っていたフォームローラー、縄跳び、ダンベル。縄跳びはほぼ毎日していた

毎日過度な食事制限をし、限界まで運動をした。すると体重は1カ月で4キロ減少し、生理は8カ月もこなかったという。「それでも満足できず、太ったらどうしよう、リバウンドするかもという思いでいっぱいでした」。不安と食べられないストレスに追い詰められ、拒食症から過食症に。毎日、信じられないほどの量を食べるようになった。

誰でもなりうる摂食障害、10代は特に注意

「この高校生の方のような体験は、決して珍しいことではありません。摂食障害は誰にでも起こりうるものです」と作田先生は話す。

一般に「摂食障害」は「やせ願望」と「自分の体重・体型に対する認知の歪み」があり、主に拒食症(神経性やせ症)と過食症(神経性過食症)のことを指す。拒食症は「極端なダイエット」と「著しいやせ」を示し、過食症は「むちゃ食い」と「体重増加を防ぐための嘔吐(おうと)や下剤の乱用」などを繰り返す。

摂食障害は一般的に拒食症と過食症のことを指す(写真はイメージ)

他に挙げられるのは「回避・制限性食物摂取症ARFID(Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder)」と呼ばれるもの。体型や体重への過度な関心や不安が背景になく、「食物の外見や臭い、味に過敏」「不安感が強く食べると気持ち悪くなるかもしれない」などの理由で食べるのを避け、著しい体重減少や栄養不足に陥る病気だ。摂食障害の診察には「DSM-5」という基準を使用し、どのような症状が存在するかを診断したうえで、その後の対応や治療法を考える。

「摂食障害は誰でもなる可能性があります。どの年代でも起こりますが、10代は特に、他人を意識してしまう。そこに、メディアやSNSが強調する理想的な体型や外見の基準への意識が重なってしまうのでしょう」(作田先生)

摂食障害になると、食べるのを拒否するようになる、家の中でも過活動になる、心拍数や体温が低くなる、夏でも寒がる、髪の毛が抜ける、歯が悪くなるなどの症状が現れるので、その傾向が見られたら受診が必要だ。

摂食障害のチェックリスト

学校の健康診断を信じて

LINE公式アカウント「高校生新聞編集部」をフォローしてくれている読者の中高生に「体型の悩み」について、1月にアンケートをし、346人(うち293人が女子)が回答してくれた。それによると、自身の体型をどう思っているかについて、5%が「やせている」、17%が「少しやせている」と回答。反対に「少し太っている」「太っている」と答えた人は合わせて50%となった。

ご自身の体型をどう思っていますか?

しかし、「周りの人から痩せていると言われても、もっと痩せていたいという思いが消えない(中2女子)」、「平均体重だけど他の子よりもすごく太っているように感じてしまう(中1女子)」など、特に女子において、適切な体重にもかかわらず、太っていると感じている人が多いようだ。

その原因として、作田先生は、女性は男性に比べて自分の体型を太っていると認識しやすい傾向があることを指摘する。「そのため、太っていなくても、痩せ願望が高まってしまうのでしょう」。

適切に自分の体型を把握するために、作田先生は「学校の健康診断」を基準にするとよいという。「中高生は、身長が伸び、体重が増えるのが自然。むしろ、痩せ続けているほうが問題です。生活習慣の指導が入らなければ、太っているか痩せているかなど、気にする必要はありません」(作田先生)

「頑張り屋さん」がなりやすい

作田先生は、摂食障害になりやすい性格として、「完璧主義」「頑張り屋さん」「自尊感情が低い」などを挙げる。そして、摂食障害を疑ったら、なるべく早く、内科や心療内科を受診しよう。

なるべく早く病院へ行こう(写真はイメージ)

「拒食症の場合は、栄養指導で体重を戻し、家族療法 FBT(Family Based Treatment)なども取り入れ、元気になっていきます。過食症は薬物療法を症状によって併用することもありますが、一定期間たてば改善し、薬を飲まなくても大丈夫になります」

病院受診に抵抗がある場合は、学校の養護の先生に相談するなど、一人で抱え込まないことが大切だ。本人に摂食障害の自覚がないことも多いので、周囲が気をつけてあげてほしい。

作田先生は、「摂食障害で悩んでいるのはあなただけではありません。つらい気持ちを誰かに伝えてください。必ず、サポートしてくれる人がいます」と語った。

 
作田 亮一さん

さくた・りょういち 1982年 日本大学医学部卒業。専門は小児神経学、小児心身症、神経発達症。現在、獨協医科大学特任教授・埼玉医療センター子どものこころ診療センター長。『10代のための もしかして摂食障害? と思ったときに読む本 「やせたい気持ち」から離れられない』(合同出版)監修