「日本語教師」の仕事について、皆さんはどのようなイメージを持っていますか? どこでどんな仕事をしているのか、あまり知らない人が多いのではないかと思います。日本語教師として働いている母の仕事場を訪ねて取材しました。(高校生記者・ゆきだるま=3年)

留学生に日本語を教える

―どんな仕事なの?

日本語学校で非常勤講師として、来日した留学生に日本語を教えているよ。常勤講師もいるけど、私のように非常勤講師として働いている人が多いよ。

日本語学校の授業風景

―1日の流れを教えて。

私は午前のクラスを担当しているよ。授業の前に、その日に使う資料やプリント類など準備したり、教師ミーティングで伝達事項などを確認したり。

午前9時から授業が始まり、1コマ45分の授業を4コマ分やるよ。授業が終わったら、明日そのクラスを担当する先生のために、引き継ぎ日誌を書くよ。

引き継ぎ日誌を書く

テストの採点や作文の添削を行うこともあるけど、私は家に持ち帰ってやることが多いかな。

日本語教師になるには

―いつ、どうしてこの仕事を目指そうと思ったの?

高校生くらいから、日本語教師に興味はあったんだ。大学卒業後、違う職種で働いた時に、来日した外国人と接する機会が多かったんだけど、日本に来た外国人ともっと関わる仕事をしたいという思いがより強くなったの。

出産後はしばらく家庭に専念していたけど、子どもに手がかからなくなってきたのを機に、ずっと興味があった日本語教師になろうと決めたの。日本語教師は年齢制限がなく、これから長く続ける仕事としては最適だと思ったんだよね。

―必要な技術はどうやって身につけたの?

私のように国内の日本語学校で日本語教師になるためには、以下の3つのうち、いずれかの条件を満たす必要があるよ。

  • 1. 日本語教育能力検定試験に合格する
  • 2. 4年制大学を卒業し、かつ「日本語教師養成講座」(420時間)を修了する
  • 3. 大学、大学院で日本語教育を専攻し、必要な単位を取得する

私は2の養成講座を受けたあと、1の検定試験を受けて合格したよ。

試験は文法などの日本語の知識はもちろん、指導法、言語習得の過程、日本語教育の歴史と現状、音声問題、記述問題などなど、広範囲にわたって出題されるの。

教えすぎちゃダメ、考える力を育てて

―下積み時代で印象に残っていることはある?

養成講座で、外国人を前に実際に授業をした時のこと。授業を見ていた先生に「学生に教えすぎ。学生は自分で考えなくなる。きっとあなたは子育てでも、同じことをやっているのでは?」と厳しくダメ出しされたの。

「一から百まで丁寧に教えることがいい教育ではない、自分の頭で考えさせることが大切だ」ということを、この時教えられたんだよね。

―やりがいを感じる瞬間は?

授業では学生の反応がダイレクトに伝わってきて、それを毎授業体感できるのがやりがいの一つ。学生が「納得できた!」という表情に変わる時は、とてもうれしいよ。「日本の大学に入りたい」とか「日本で就職したい」とか、みんなそれぞれ将来の夢を持っているから、その夢の実現を少しでもお手伝いできていればうれしいな。

学生から自国の文化や習慣を聞く機会が多いから、自分自身も学ぶことが多いのもやりがいだよ。いろんな国籍の人がいるクラスで、いろんな国の料理レシピを教えてもらって、レシピ本を作ったこともあったよ。

感覚的にわかることを教える難しさ

―仕事の厳しさや大変なところは?

授業準備に意外と時間がかかることかな。あとは、日本人だと感覚的に使っている日本語について「どうしてそうなるの?」と質問され、説明に困ることがあるよ。

準備などを行う教員室

例えば、これは以前学生に質問されたんだけど、「『学生として大切なこと』と『学生にとって大切なこと』の違いは何?」と聞かれたら説明できるかしら。「『学生にとって、しっかり勉強しなければならない』という表現が間違っているのはなぜ?」と聞かれた時は、即答できなかったんだよね。

即答できない時は、「先生の宿題にさせて。みんなが納得できる説明を考えてくるから」と言って、次回の授業までに考えることもあるよ。

―向いているのはどんな人?

いろんな国籍の人がいるから、いろいろな考え方・価値観を受け入れる、柔軟性のある人。あとは、「学習者のためにはどうすればいいか」を常に考え、楽しくわかりやすい授業を提供しようと努力を惜しまない、サービス精神のある人だな。

学び多く、生涯続けられる仕事

―この仕事の魅力は?

異文化交流が図れること。自分自身も学ぶことが多く、成長し続けることができること。年齢制限がなく、生涯続けられる仕事であること。

―この仕事は将来、どんな風に変わっていくと思う?

日本語教師は、世界の政治や経済情勢の影響を受けやすい職種であるのは確かだよね。実際、ここ数年はコロナによって留学生が入学できなくて、日本語学校は大きな打撃を受けたの。

でも、長い目で見れば、日本は少子高齢化社会によって労働力不足が予想されるから、国は外国人の受け入れに積極的な姿勢をとっていて、国内で活躍する外国人は増えているよね。あと、日本のアニメや漫画などのサブカルチャーの人気は根強いから、今後もアニメなどをきっかけとして日本語を学ぶ外国人は増えていくと思うな。

授業で使用している教案

だから、日本語教師の需要は今後も高まっていくと思うよ。実際、日本語教師の資格を、国家資格にしようという議論が進んでいるんだけど、質の高い日本語教師がもっと必要とされているということだよね。

―日本語教師を目指す高校生がいまやっておいたほうがよいことは?

日本語教師は、最初は違う仕事で社会経験を積んだ後に就く人が割合としては一番多いの。つまり、さまざまな経験、職歴が役に立つ仕事だと思うな。だから、まずはいろいろなことに興味を持って、さまざまな経験をすることが大切。

あとは、伝統的なものからサブカルチャーまで、さまざまな日本文化への理解を深めることも大切だよね。実際、アニメや漫画に関しては、日本人より外国人の方が詳しいと思うことも多いよ。

【取材後記】留学生の前向きな姿に刺激

今回の取材で、普段とはまた違った「日本語教師としての母」の姿を見ることができました。授業を見学している時、「私たちは無意識に日本語の細かい文法を使いこなしている」ということに気が付いたり、留学生の勉強に対する前向きな姿勢に刺激を受けたりと、新たな発見がたくさんありました。

実際に留学生の方とお話しをしたのですが、異文化交流の大切さや楽しさを改めて実感できました。現在は新型コロナウイルスによる入国制限も緩和されつつありますが、少しでも早く元の生活が戻り、日常的に海外の方と交流する機会が増えたら良いなと思いました。