学校図書館の枠にとどまらない、さまざまなイベントを行う津高校(三重)図書館。生徒たちが1冊の本と巡り合うため、ほっとする場所だと感じてもらうため、司書の井戸本吉紀さんが今日も企画運営に励む。同校の図書館の魅力を図書委員会の生徒たちに聞いた。(文・中田宗孝、写真・学校提供)

中庭で読書タイム

昼下がりの校内中庭にたくさんの本が並ぶ。津高校の図書館による出張イベント「青空図書館」だ。軽音楽部の選曲によるBGMが流れる中、集まった生徒たちは本をパラパラめくったり、友だちと座ってランチしたりと、ゆったりとした時間が過ぎていく――。

40分間の昼休みに不定期開催する「青空図書館」

「中庭は普段から天気が良いときは生徒で賑わう場所。そこに本があって音楽が流れて。とても新鮮でより良い空間になるんです」。図書委員長の山村朋さん(3年)が話す。

同校図書館は、2017年度から21年度までの5年間で、年間貸出冊数を約4倍に伸ばした。18年から勤務する司書の井戸本さんがユニークなイベントを数々企画し、生徒たちが本に出会うきっかけづくりに取り組んでいる。青空図書館もその一つだ。

図書館で部活発表

ある日の放課後、図書館は部活の発表の場となった。邦楽部は和楽器を演奏し、ジャグリング部はパフォーマンスを披露した。本に囲まれながら軽快に踊ったのはダンス部だ。部活とのコラボ企画を行うことで、普段あまり図書館を利用しない生徒とのつながりが生まれるという。

「クラスメートが部活をする姿って、実はあまり見る機会がないんです。コロナ禍なのでなおさら」(山村さん)

図書館と部活動のコラボ企画。コロナ禍で少なくなった発表の場を提供した

これまでの多彩な活動は学校外でも高く評価され、昨年、NPO法人知的資源イニシアティブが2006年から主催する「ライブラリー・オブ・ザ・イヤー2021」で優秀賞に輝いた。「時代に即応し、読書と学びの機会を保障する学校図書館運営」での受賞となった。

今年度も井戸本さん発案の魅力的な催しが図書館で行われている。7月の参議院選挙の時期には「模擬選挙」を実施。市の選挙管理委員会から借りた本物の投票箱を設置して、図書館に力を入れてほしいジャンルや漫画作品を生徒たちが投じる1票で決めた。

図書館に置いてもらいたい本を生徒の投票によって決めた模擬選挙

「図書館ミュージアム化計画」と題すイベントも7月に開催。県内外の美術館や博物館、科学館などのポスターを展示し、チラシを配ったところ、各施設から提供された招待券を求めて多くの生徒が図書館を訪れた。

図書館ミュージアム化計画。たくさんの生徒が図書館に足を運んだ

「ちょっと温かく、ちょっとおもしろい場所」

図書館の蔵書は約2万6千冊。小説や科学の本がよく貸し出されている。今は「推し、燃ゆ」(宇佐見りん著)が人気という。「(津高校図書館は)とても落ち着ける場所です。本の匂いも好き」と、図書委員の木村喜煌さん(2年)。本好きの3学年36人で構成される図書委員会は、昼休みや放課後に本の貸出・返却業務にあたる。図書館に置く本を地域の書店で選ぶ「本の買い物ツアー」は、図書委員たちが楽しみにする活動の一つ。また、毎年図書館で開かれる、愛読書の書評を競い合う「ビブリオバトル」には、図書委員会からも選抜エントリー。今年の大会では、図書委員の二瓶詩音さん(2年)が優勝を飾った。

司書の井戸本さん(前列左)と、図書委員長の山村さん(後列中央)ら委員たち。ライブラリーカード(右下)のデザインは、昨年度、在校生から募り、校内投票で美術部員(当時1年)のイラストを採用した

山村さんは「私たちの図書館の魅力は、司書の井戸本さんです!」と、力強く答える。「図書館でのトークショー(講演会)のゲスト人選だったり、イベントの面白さだったり。井戸本さんなら間違いないなと思っていて」

本棚の入口には、「文学」「スポーツ」「言語」といったジャンル別に印字された藍色の暖簾がかかる。東京・日本橋の「誠品書店」から着想を得た井戸本さんのアイデアだ。

「本を読むだけの静かな場所だけじゃなくて、私たちの図書館はちょっと温かくて、ちょっとおもしろい空間。その雰囲気をつくり出しているのは、井戸本さんのご尽力によるところが大きいんです」(山村さん)