「どうすれば弁護士になれるの?」「弁護士の仕事内容は?」。こうした疑問を解消すべく、日本弁護士連合会は、高校生・大学生向けのイベントを開催。今回は亀石倫子弁護士の講演の様子を伝える。(文・高槻官汰、画像提供・日本弁護士連合会)

味方がいない人の気持ちが分かる

亀石さんは仕事をする中で、いつも「自分自身の中にある思い込みや誤解」に気づかされるという。「犯罪をした人=恐ろしい人、とても悪い人」という思い込みも、仕事を通して払拭(ふっしょく)されていった。

窃盗事件を繰り返している人と面会した際、そこにいたのは、摂食障害で歩くのもままならない女性。彼女は窃盗症という精神疾患で、物を盗むのを止められない状態だった。

実際の面会や自身の経験を通して亀石さんは「味方が誰もいない人の気持ちが分かり、自然と寄り添える」という自身の強みに気づいた。

亀石倫子弁護士

無知が引き起こす誤解や偏見がある

弁護士になってから3年目。亀石さんは、ナイトクラブが風俗営業法違反で摘発された事件を扱った。摘発理由は、公安委員会の許可を受けずに営業していたこと。亀石さんによれば、警察が摘発を行った背景には「クラブ内で違法薬物が売り買いされている」「未成年の子どもがクラブに出入りしている」などのうわさがあったという。

事件を担当し始めた頃は、クラブに対して良いイメージを持っていなかった亀石さん。クラブのオーナーやお客さんへの聞き取り調査をしたり、クラブイベントに足を運んだりする中で、またしても自身の思い込みに気づいた。

クラブで出会った人々は、音楽を心から愛していた。DJや下積み期のアーティストにとって、クラブは貴重な表現活動の場となっていた。「恐ろしい」という言葉で表される雰囲気はなかったのだ。

扱った事件について説明する亀石弁護士

亀石さんは裁判で、弁護団の一員として「クラブ関係者は無罪であり、風俗営業法の取り決めが理不尽なのだ」という主張を行った。裁判は全国のクラブ関係者の注目を集め、多くの人が傍聴に訪れた。最高裁まで争われた裁判の結果は無罪。多くの国会議員が時代錯誤な法律のおかしさに気づき、風俗営業法の改正が実現した。

亀石さんは「クラブについての無知が引き起こす誤解や偏見に対して、自分たちの問題意識を確実に伝えることの大切さを学んだ」と、当時を振り返る。

差別を背負った人が自分らしく生きられるように

「弁護士という仕事を通して、さまざまな社会問題や偏見に気づいた。気づいた以上は、裁判所内で留めず、多くの人に発信するのが弁護士の責務だと思う」。亀石さんは力強く語った。

裁判の当事者を判決で救うだけでは、事件の本質的な解決にはならない。新たな法整備に向けての世論をつくる必要があるという。「弁護士に必要なのは、自分の心の中にある差別・偏見に気づこうとする態度。差別や偏見を背負った人が、自分らしく生きられるようになったとき、弁護士としてのやりがいを感じる」。亀石さんは、そう語って笑顔を見せた。