すぎやま・ふみの
1981年、東京都生まれ。フェンシング元女子日本代表。早稲田大学大学院教育学研究科修士課程修了。大学院でジェンダー論を学び、その研究内容と性同一性障害と診断を受けた自身の体験を織り交ぜた「ダブルハッピネス」(講談社)を出版し反響を呼ぶ。NPO法人 東京レインボープライド、NPO法人ハートをつなごう学校代表。

高校生の理解を深めようと、今年度の教科書に初めてLGBT(性的少数者)という言葉が登場し、注目が集まっている。自身もトランスジェンダーであり、日本最大のLGBT啓発イベント「東京レインボープライド」共同代表理事も務める杉山文野さんに、LGBTをめぐる日本の現状や高校生が知っておくべきことについて聞いた。

色眼鏡なしにその人を見て

――LGBTの当事者は日本にどれくらいいるのでしょうか。

国内や海外のさまざまな調査を集約すると、割合としてだいたい5〜8%といわれています。日本の人口でいうと1000万人近くになります。左利きやAB型の人と変わらない数字です。日本で多い名字トップ4は佐藤さん、鈴木さん、高橋さん、田中さんですが、これらの人の割合は人口の5〜6%といわれています。皆さんにこの名字の友だちはいると思うし、クラスにも1、2人はいますよね。「LGBTの人なんか会ったことないよ」と思うかもしれませんが、実はそのくらい身近な割合でいるんです。

――自分の周りにはいないと思っていても、必ずいるということですね。

はい。セクシュアリティは「自己申告制」なので、目には見えない。でも「いない」んじゃなくて、当事者が「言えない」という現実があるんです。僕が高校などで講演すると必ず、メッセージカードや感想欄に「実は自分もそうです」「実は友だちに相談されたことがあります」という声が含まれていますね。

認知進むも法整備に遅れ

――日本の現状は海外と比較してどうですか。

国連加盟国193カ国のうち80カ国以上は、いまだにLGBTという理由で犯罪になったり死刑になったりする可能性のある国です。そういう国と比べれば日本は進んでいるといえるかもしれませんが、法整備でいうと、差別禁止法もなければ同性婚もできないし、トランスジェンダーの性別変更の条件も厳しい。先進国としては非常に遅れています。
 

――LGBTへの認識は近年、変化していますか。

僕が本(ダブルハッピネス)を出した11年前は、性同一性障害がほとんど認知されていなかったのですが、この10年でLGBTという言葉が一般常識的に使われるまでになりました。

特に2015年に、渋谷区の「男女平等および多様性を尊重する社会を推進する条例」ができたことが大きかったと感じます。同性カップルを結婚に相当する関係と認める、日本初の「同性パートナーシップ証明書」が話題になりましたが、行政がこうした取り組みを始めたことで、今までLGBTの人たちが「いない」という前提で物事が語られていたのが、「いる」という前提に変わったことが何より大事。

前例ができたことで一気に、いろんな自治体や企業で議論や取り組みが始まりました。
 

一人で悩まないで

――当事者である高校生に伝えたいことはありますか。

一人じゃないよ、ということ。情報がないと自分だけなんじゃないかとか、自分を否定する気持ちが出てくると思うんですが、決していけないことではないし、ほかにも当事者はいっぱいいて相談窓口もあるから、一人で悩まないでいいんだよ、と伝えたいです。
 

――友人から相談を受けたらどうしよう、という高校生にアドバイスはありますか。

カミングアウトは「あなたを信頼しているよ」という証しでもあります。だから「話してくれてありがとうね」というところからスタートするといいと思います。その上で、ただ話を聞いてほしいだけなのか、具体的に困っていることがあるのか、じっくり聞きながら対応すればいいんじゃないかな。

一つ気をつけてほしいのは、カミングアウトされたことを誰かに無断で伝えてしまう「アウティング」だけはしないでほしい。アウティングされた大学生が自殺するという痛ましい事件もありました。カミングアウトされた後に、どう付き合っていいか分からないという悩みもあると思いますが、男や女、あるいはLGBTだからという色眼鏡なしに、その人自体をしっかり見てほしいですね。

「フミノはフミノ」友人が支えに
中学生のときの杉山さん(本人提供)
 

 物心ついたころから女体の着ぐるみを着ているような苦しさや、常にうそをついているような罪悪感がありました。でも、中学3年生から付き合っていた彼女にさえ「本当のことを言ったら気持ち悪がられるんじゃないか」と思うと、性別の違和感について話せませんでした。

 その彼女に振られたことで、一人で悩みを抱え込むことに限界がきて、高校2年生の時、一番親しかった友人に本当のことを吐き出したのです。友人は泣きながら話を聞き、「性別がどうであれ、フミノはフミノじゃん」と言ってくれました。その言葉がすごく大きかった。もし最初のカミングアウトが「えーっ、気持ち悪い」という反応だったら、今の僕はなかったと思います。

 こんな僕と向き合ってくれる人がいると感じられたことで、自分の嫌だったところにとことん向き合えるようになり、さらに周りの人たちとも向き合えるように変化していきました。高校時代にはセクシュアリティに限らず、いろんな苦しいこと、つらいことがあると思います。そんな思いや体験こそ、自分を成長させてくれるいい栄養素になる、と今となっては思います。

【相談窓口】  一般社団法人社会的包摂サポートセンター「よりそいホットライン」(電話0120-279-338)は、セクシュアルマイノリティーの専門回線があり、性別や同性愛に関わる悩みについて、専門の相談員が一緒に解決する方法を探してくれる。そのほかにもセクシュアルマイノリティーのコミュニティスペースを運営する「特定非営利活動法人SHIP」やLGBTを対象にした友達作りのイベントを主催する「NPO法人ピアフレンズ」など支援する団体がある。