掃除、洗濯、料理……毎日を豊かに暮らすために必要な家事。だが、「大変」「面倒」「疲れる」と「やっかいなもの」として捉えている人も多いだろう。神奈川の高校2年生、大山桃代さんは、インターネット上で家事の楽しさ、素晴らしさを発信し続けている「家事に恋する高校生」だ。(文 中田宗孝 写真 本人提供)

家族のためにできることは何だろう

―高1の4月から、大山さんは自らを「家事に恋する高校生」「家事研究家」と称してウェブサイトを開設。家事に関する情報をインターネットで発信するようになった動機を教えてください。

コロナ禍で学校が休校になり、自分自身について考える時間がたくさんありました。「今の自分は何ができるんだろう」「好きなことはなんだろう」と、自分と向き合う中で大好きな家事について発信してみたい気持ちが強くなったんです。

家事ってごく普通のことで、じっくり考える機会が少ないんじゃないかなと思ったんです。私は、自分が家事を通して学んだことがすごくありました。そんな家事の魅力、素晴らしさを同世代の方々に広く伝えてみたいと思い、インターネットでの活動を始めました。

踏み台に乗ってシンクの掃除をする幼少期(左)と、現在の大山さん

―大山さんは、いつから何がきっかけで家事を始めましたか?

最初は、家事をする母の後ろをついてまわり、真似っこするような感じでした。おままごとの延長の気分で、リアルなおままごとをやっている、みたいな。幼稚園の年中さんになるころには、包丁をもたせてもらって料理のお手伝いをしていました。

そんな私が家事への意識を強く抱くようになったのは、“家族の一大事”がきっかけなんです。小3のころ、父が病気で入院生活となり、母は看病のため家に居ないことが多くなりました。その状況に置かれたとき、自分は家族のために何ができるだろうと考え、「家事をしよう」と行動しました。

―母親の負担を減らすために本格的な家事に取り組んだんですね。

はい。下校して家に母が不在だったら、お米を炊き、お味噌汁を作って母の帰りを待っていました。休日はお風呂掃除や洗濯をしていました。

幼少時の好奇心、家族のためにと使命感や責任感から家事を始めて、気がついたら私は家事が大好きになっていたんです。学年があがるにつれて家事スキルも向上していきました。

そして中2のとき、今度は母が体調を崩して入院。その際、私は主婦の方が普段からしている家事全般に取り組み、(姉や兄とも協力しながら)家の家事をまわすことができるようになっていました。

入院中の父親の看病をする母親のために夕食を作り、母親宛に置手紙を残した小学生のころ。娘の行動が嬉しかった母親は、この置手紙を記念に取っておいてくれたそう

 

基本は学校優先、テスト後は母に代わって「一日中家事の日」

―高校生になった今、普段はどんな家事をしていますか?

お弁当も母に作ってもらっていますし、基本的には学校生活を優先してます。帰宅すると、自分のお弁当箱を洗ったり、住居用の掃除ワイパーをかけたり。夕食後には家族の食器洗い。休日は夕食づくりを担当することもあります。

テスト期間中になると家事がまったくできなくなるので、テストが終わったら、母に代わってすべての家事を私がやる日を設けています。起床して換気のために家の窓を開けるところから始まり、ゴミ出し、掃除、買い物、食事づくり……洗濯した衣類などを畳むまで、1日中家事をしています。

洗面所のタオルの色を揃えてたたむ。「まるでホテルで過ごしているような気分に!」(大山さん)

整理整頓が得意、すっきりしてると気持ちいい

―好きな家事はありますか?

整理整頓が一番好きですね。洋服屋さんをしていた祖母は服を畳むのがとても上手で、私もそれに影響を受け、服をきれいに畳んでしまっています。季節で洋服棚の服を入れ替えるのはもちろん、色味や服の厚さで服を仕分けしています。

洗面所のタオルは色を統一させました。タオルの棚を開けると、同じ色、同じ形のタオルが整列する様子に自分のテンションが上りますし、気持ち良さも感じます。

自分の机の上は最低限のモノしか置かないようにしています。これも整理整頓と言えるのではないでしょうか。昔はお気に入りのぬいぐるみなど、机に色々飾っていたんですけど、いつの間にかモノであふれて机の上がごちゃごちゃしてしまったんです。

こんな経験から、極力何も置かないことにしました。整理整頓の良さは、気分がスッキリするところですね。

整理整頓を極めた大山さんが使う机まわりはスッキリ&シンプル

金銭感覚、計画する力もついた

―大山さんが思う、家事の魅力とは?

家事をしながら、自分の身になることや人生の学びを見つけることができる。座学での学び以外にも、“家事から学び”を得られるのがすごく楽しいんです!

 家事に恋する高校生・大山さん。「家事に恋する高校生note」では、家事コラムや、家事について幅広い世代に自ら取材したインタビュー記事などを掲載する

―家事をする中でどんな力が身についたと実感していますか?

家事をしてきて、早いうちから「自立」に繋がりました。家の中のことは一人でできます。食材の買い物をしてきた経験から、この商品はこっちのお店は高いけどここが安いとか、しっかりとした「金銭感覚」が身につきます。さまざまな家事を計画的に進めていかないと終わらないため「時間に厳しく」なったと思います。

―なぜ楽しく家事ができているのですか?

家族が喜んでくれるからなんです。人が喜べることを自分の喜びと思えるってすごく幸せなことだなって。そして、いつも家事をしてくれている親、私をサポートしてくれる周囲の方々への尊敬の念を感じられるようになります。家事は「思いやり」を学べるんです。

 昨年夏、自ら企画した「家事恋ワークショップ」を自宅で開催。小学3~4年生たちに洗濯物の畳み方などを教えた。「終了後、参加した小学生がお母さんに『ありがとう』と伝えていたんです。それが嬉しかった」(大山さん)

家事には小さな喜びがいっぱい!

―家事は面倒くさい、大変、つらい、と感じる人が多いです。大山さんのように家事に取り組めるコツはありますか?

私の場合は「達成感」が家事を楽しむコツかなと思っていて。

例えば、やらなきゃいけない勉強をサボって溜めてしまうと精神的に苦しくなり、徹夜で勉強しなければならなくなって、それ自体が嫌になってしまう。でも、毎日コツコツ勉強していれば、焦って徹夜することもない。

勉強を苦に思わない人って、勉強することが当たり前の日常。勉強で得られる「達成感」を知っているから「また頑張ろう!」ってなれる。

―勉強と似ている、ということですね。

はい。家事も同じなんです。掃除をし、整理整頓すると自分の気分が良くなる。家の中がキレイになっていると家族が喜ぶ。おいしいご飯を作ると喜んでもらえて、もっと料理を上手になりたいと工夫を凝らすようなる。

トイレ掃除を終えると、その空間がパッと明るい雰囲気になり、気持ちがいい。こんな“小さな喜び”がいっぱい潜んでる家事を、自分の日常の中にルーティン化させていく。そして、家事をすることで自分の暮らしをより良くしたり、誰かと喜びを共有したりして「達成感」を感じられれば、家事が楽しくなると思います。

疲れてるときは「ゲーム感覚」で

―大山さん自身は、気分が乗らない、忙しくて疲れてる日の家事をどうしていますか?

もちろん、家事が大好きな私でも面倒くさいなと感じる日があります。そのときは、“ゲーム感覚”で家事を楽しむようにしています。

「前回はお風呂掃除に10分かかったから、今回は最短記録を目指してやってみよう!」といった時間制限を設けて家事を楽しむやり方です。スーパーへの買い出しは何分で帰ってこよう。自転車を飛ばせば15分で家に戻ってこれるな、とか(笑)。達成できたら「自分に勝った!」みたいな(笑)。

特に掃除は、完璧を求めたらきりがなかったりするので、目標時間を設定して取り掛かれば限られた時間で効率良くきれいにすることに意識が向くようになります。そして、設定時間内に早く掃除を終わらしたときに味わう達成感が楽しさに繋がると思います。

私も学校生活で忙しいこともあるので、こんなゲーム感覚で家事をやっています。

趣味はお菓子作り。得意なスイーツは、マカロンとロールケーキ。自身のインスタグラムで、作ったお菓子を紹介中。「YouTubeやスイーツ本を読んで学んでいます。食べて幸せを感じられるお菓子を作っていきたい」(大山さん)

―最後に、今後の目標を教えてください。

家事のさまざまな魅力が伝わればなと思い、「家事に恋する高校生」としてインターネットなどで活動しています。この活動を通して、私は誰かに寄り添える人になりたい。誰か一人にでも家事の魅力が伝わって、寄り添えることができたら。誰かが困っているときに、そっと手を差し伸べられる人になりたいなと思っています。