家族の夕食づくりに奮闘中の男子高校生がいます。ピョンちゃんこと優子さんは、自身のツイッターを通じて、高校2年生の息子リョウ君(仮名)が手掛けた料理の数々を発信して注目を集めています。中学卒業後から取り組むリョウ君の夕食づくりは、100日目を迎えました。夕食づくりを始めた動機や得意料理、経験から得たものをリョウ君、優子さん親子に語ってもらいました。(中田宗孝、写真は本人提供)

コロナ休校がきっかけ「暇つぶしになるな」

―夕食づくりを始めたきっかけを教えてください。

リョウ君(仮名) 中学を卒業(2020年3月)して間もなく、母から夕食づくりを提案されたんです。当時、新型コロナウイルスで高校は休校。塾も部活もなく自由な時間がたくさんあり、「ちょうどいい暇つぶしになるな」と思って夕食づくりを始めました。食事を作ったら小遣いももらえたので。

母親の優子さん 夕食に使う食材の予算は1日千円までと決めました。食費を千円以内に収めて、余ったお金は自分のお小遣いにしていいよ、と持ちかけたんです。

レシピ本を参考に、台所で家族の晩ごはんづくりに励むリョウ君

―それまで料理をした経験はありましたか?

リョウ君 未経験ではありませんが、めったに作ったことがなかった。夕食づくりを始めたばかりのころは、パスタをゆでてレトルトのソースをかけるだけだったり、インスタントのスープだったりと簡単にできるものを作ってました。

その後、母が持っていたレシピ本に掲載されている料理を作るようになりました。本に紹介されているとおりに調理すれば、おいしい料理ができたんです。

リョウ君が作ったある日の夕食。得意料理の鶏肉のウスターソース煮をはじめ、やみつきキャベツ、鶏皮のカリカリ揚げ、みそ汁が食卓に並ぶ

「週末に仕事がある母を休ませたい」

―得意になった料理はありますか?

リョウ君 「鶏肉のウスターソース煮」や「チャーシュー」は、もうレシピを見なくても作れるようになりました。

チャーシューを最初に作ったころは、肉が柔らかくなりすぎたり味が濃くなったりしたことも……。肉を柔らかくするために加える日本酒の分量を調節してみたり、モモ肉やロース、バラ肉でチャーシューをそれぞれ作ってみて脂身がどう違うのか試したりもして、おいしくなる工夫を今も続けています。

チャーシューは一晩寝かせ、味を染み込ませて丁寧に作る。ふるまった友人からも好評だった自信の一品だ

―休校が明けて通常の学校生活を過ごしながら料理も続けているそうですね。

リョウ君 今は週1のペースで作っています。週末に仕事のある母を休ませるために、父と僕で土日の夕食づくりを分担しているんです。

母親の優子さん 3つのルールを決めて週末の夕食づくりをしてもらっています。タンパク質の豊富な料理と野菜のおかずを1品ずつ作ること、そして汁物も必ずつける。

エビとじゃがいものマヨだれ炒め、じゃがいもともやしのみそ汁、キュウリナムル。母からの3つのルールに合わせた夕食を作っている

段取り力UP、調理時間も短縮「熱々で料理出せます」

―夕食を作り始めたころよりも料理の腕前があがったと感じますか?

リョウ君 最初はすべての料理を完成させるまでに1時間以上かかっていたんですが、今は40分くらいで調理を済ませられるようになりました。調理する順番をしっかり考えてから取り掛かることで調理時間を短縮できるようになったんです。

母親の優子さん 私も段取りについては始めのころ結構口を出してました(苦笑)。「ずっと鍋を見てなくてもお湯は沸くから」とか「お湯が沸くのを待っている間に野菜を切って」とか。

リョウ君 最初はメインの料理から作っていたので、全部できあがったときにメインの料理が冷めてしまった失敗も……。

今はみそ汁を作りながら鶏肉を切ったり、レンジを使いながら他の料理の準備をしたりと、同時に複数の作業ができるようになった。そして、サラダなどの冷めても良いものから先に作って、調理の後半にメインの料理に取り掛かり、熱々の状態で食卓に出せるようになりました。

短い時間で栄養バランスの取れた料理を作れるまでに上達したリョウ君

―夕食のほかにスイーツにも挑戦していますね。

リョウ君 はい。レシピ本にも載っていたし、時々チェックしているYouTubeの料理系動画でもスイーツの作り方を視聴してたので、自分でも作れるんじゃないかと興味を持ったんです。これまでにケーキ、プリン、ガトーショコラなどを作りました。シュークリームは何度も作ってます。

母親の優子さん 毎日シュークリームが出てきた時期もあったね(笑)

苦戦したシュークリーム作りもマスター

リョウ君 シュークリームの生地が上手に膨らまなくて、どうやったらうまくいくのかと試行錯誤を重ねました。生地を作るときの水分の調節をすることでうまく膨らむようになりました。

母親の優子さん 昨年の母の日には「いちごムース」を作ってくれました。ほかにも、スイーツではないですが、韓国ドラマに登場して食べてみたくなった「ヤンニョムチキン」をリクエストしたら作ってくれたこともありました。

母の日に日ごろの感謝を込めて、いちごムースを作った
母のリクエストに応えて作ったヤンニョムチキン

献立作りは大変「母の料理は“当たり前”じゃない」

―夕食づくりを始めて、自分の中で新たな発見や気づきはありましたか?

リョウ君 いろいろな食品の販売価格が分かるようになりました。鶏肉、豚肉、牛肉、それぞれ値段が違うんだなとか。食費の節約も考えるように。調理面では、ゴマ油、塩、コショウを使えば何でもおいしくなる(笑)

そして、これまで母が作った料理を当たり前だと思って食べていたけど、そうではないと。自分で夕食を作ってみると、日々の献立を考えるのは大変だし、かといっていつも同じメニューじゃなぁと僕自身も感じる。

だから、母が栄養バランスを考えた料理を毎日作ってくれてありがたいと思うようになりました。

―お母さんは料理を始めてからの息子さんの成長ぶりをどのように感じていますか?

母親の優子さん 体づくりのために食事や栄養面を気にするようになったんです。筋肉をつけたいからタンパク質のあるサラダチキンをお弁当に加えてほしいと息子からリクエストされたんです。

リョウ君 学校では硬式テニス部に所属してます。運動後にタンパク質を摂取すると筋力をアップさせる効果があると聞いたので、母にお願いしたんです。それとは別に、タンパク質の入ったプロテインバーを学校に持っていくこともあります。

母親の優子さん 私自身は、この取り組みを通じて、将来、息子が一人暮らしを始めたときに困らないためのスキルを身に付けてほしいなと。食べることやお金のやりくりは一生付き合っていくもの。なので、高校生のうちに、決められた金額の中で購入した食材を上手に組み合わせてバランスいい食事を心掛けてくれればいいなと思っているんです。  

―最後に、夕食づくりに関して今後の目標があれば教えてください。

リョウ君 おいしい唐揚げが作りたいです。これまで何度か作っているんですけど、自分の味にいまいち納得してません。お気に入りのお店の唐揚げの味に近づけたいですね。

「息子の唐揚げはおいしいです。お店レベルまではまだまだですけど、家庭料理ならあり!」と、母も太鼓判を押す