中学生の2割、高校生の3割が全く読書をしないと言われる中、小説の魅力を発信するTikTokクリエイター・けんごさんが注目されている。10代からの支持を集め、動画で紹介した本は続々と重版が決まる。なぜ10代を本のトリコにできるのか。そのカギは「読書を純粋に楽しむ心」にあった。(文・写真 黒澤真紀)

1年でフォロワー27万人、10代から支持

10代の読書離れは、学年が上がるにつれて進む。全国大学生活協同組合連合会が2018年に発表したデータによると、中学校時代は20.9%が、高校時代は31.0%、大学生の53.1%が全く読書をしなかった。

そんな10代の心をつかんでいるけんごさんは、社会人1年目の23歳。30秒ほどの動画に数冊の小説を紹介する動画が、TikTokで瞬く間に人気となり、開始から約1年でフォロワーは27万に(2021年11月時点)。

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高校生新聞の中高生読者にけんごさんについて尋ねると、「けんごさんがオススメしてくれた本からお気に入りの作品に出会えた。コメントやリクエストに応えてくれる優しさが素敵」(暁・高校3年生)、「短い時間で“読みたい!”という気持ちになる!」(れみもかん・中学3年生)と支持を得ている。「けんごさんが紹介した本は重版が決まるなど、とにかくよく売れるんです」(ポプラ社の宣伝担当)と、出版界でも注目の存在だ。

小中高は「読書時間ゼロ」、大学1年で小説と衝撃の出会い

どれだけ文学少年だったのか…と話を聞くと、「読書は全くしませんでした。読書感想文も書いたことがありません(笑)」と、意外な答えが返ってきた。

ずっと野球一筋だったというけんごさん

小3から野球を始め、大学4年で引退するまで外野手を務めた。野球の練習に明け暮れた小、中、高は読書する時間は全くなかった。両親は読書好きなほうだったが、「本を読みなさい」と言われた記憶はない。

転機は大学1年のとき。野球推薦で大学進学が決まり、福岡から上京し学生寮へ。高校時代より野球の練習時間に余裕ができ、「お金を使わずにできる趣味が欲しい」と釣りなどさまざまな試みをした結果、たどりついたのが「読書」だった。

読書は最高の趣味と語るけんごさん

始めて手に取ったのは東野圭吾さんの『白夜行』。文庫で850ページもある超大作を、それまで読書経験ゼロのけんごさんは2週間かけて読み終えた。「これまで本を読んだことがなかったので時間がかかりました。でも、1000円くらいで2週間もの時間が潰せる。読書は最高の趣味だと感じました」

「思ったより小説って難しくない」。さらに読書にハマり、ミステリー、新刊など、読みたい本、読みやすい本へと読書の幅はどんどん広がっていく。そのうち、自分の経験を活かして「本を読まない人に本を紹介したい」と思うようになった。

本が苦手な人に小説の魅力を伝えたい

野球部を引退し、時間ができた大学4年、2020年11月にTikTokで小説を紹介し始めた。

 「本が苦手な人にこそ見てほしかった。YouTubeはサムネイルから見る動画を選ぶので、小説が嫌いな人はそもそも見ないでしょう。その点、TikTokはおすすめフィードに自動的に動画が流れるので、小説に苦手意識を持っている人が無意識のうちに僕の動画を目にする機会があると思い、TikTokで紹介することにしました」

読書をしない人に思いを伝えるにはTikTokが最適だった

動画で重点を置いているのは「何が書かれた本か」を簡潔にまとめること。

「本を読まない人が興味ないであろう、発行部数や筆者は重要視しません。あくまで、僕が読んで、おもしろかった作品だけを選び、〝読もう″と思ってもらえるような紹介になるよう、心がけています」

「僕にはおもしろかったけど、あなたにはおもしろくないかもしれませんよ」というスタンスで伝えることも忘れない。その正直さが「その本の特徴や魅力を最大限に伝えてくれる」(読書のトリコ・中学3年)という中高生の反応につながる。

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「読書を押し付けない」10代の気持ちが分かるから響く

けんごさんはインスタに届く10代からのDM(ダイレクトメッセージ)に目を通し、答えている。「今、人間関係で悩んでいます。こんなときにオススメな本を教えてください」など、自分の状況を打破するために、小説に救いや解決策を求める10代が動画を楽しみにしているのだ。

10代に寄り添う姿に、高校生新聞の読者からも「けんごさんのおかげでいろいろな本に出逢い、世界が広がりました」(ねんね・中学2年)と声があがっていたのもうなずける。

「子どもに本を読んでほしい。できれば名作を…」と願う保護者は多く、つい「たまには本を読みなさい」と言ってしまうもの。「それは逆効果」だという。

けんごさんは「親に本を読みなさいと押しつけられなかったのがよかったですね」と言う。「その子にとって、本がおもしろいと思うタイミングはそれぞれ。僕はそれが大学1年だった。その時が来るまで、親は読書を押しつけないほうがいい。読みたい本で構わないからまず1冊読んでみることが大切。そのきっかけに僕のTikTokが役に立つと嬉しい」

読書は最高の暇つぶし「読解力がつく? 考えたことない」

読書というと、「文字が多くて大変」「何を読めばいいのか」わからないと構えてしまう人が多いはず。だが、けんごさんは「難しく考えなくていい」と言う。

「読書をすると読解力がつくとか、集中力が高まるとか聞きますよね。ぼくはそんな難しいことを考えたことはありません。好きな本を読めばいいと思います。本は映画や漫画と同じでとても楽しい娯楽。最高の暇つぶしですよ」

10代に優しい眼差しを向けて小説を紹介するけんごさん。紹介文には愛があふれている

本を最後まで読み切ることにこだわらず、「この本は僕には合わなかったかな」と、途中で読むのをやめることも。月に何冊読むかも決めていない。今は、2022年春に出版予定の小説の執筆に忙しく、本を読むのは月に5冊くらいだという。

「1日10分だけ」を守ってみて

読書を始めたい人は、まず本屋さんで読みたい本を1冊手に取り、1日10分読むことから始めてみるのがオススメだという。「続きが読みたくても、10分と決めたら10分だけに留めるのが大事。すると、物足りなく感じて、次の日も読みたくなるはず。数日後に少しだけ読む時間を伸ばす…その繰り返しで、どんどん読書時間が伸びてくるでしょう」

「何を読んだらいいかわからない」という相談も多い。「本屋さんのベストセラーコーナーから選んでみて」とアドバイスを送る。「部活、家庭環境、友人関係など、自分の環境と重なるテーマもいいかもしれません。そこから、好きなジャンル、作家に枝分かれしていくとどんどん読書の幅が広がりますよ」

中高生時代に「読まないなんてもったいない」

大学時代に小説のおもしろさを知ったけんごさんは、もっと早く本の魅力に気づきたかったと後悔している。「小中高のときの感覚はその時にしか味わえません。大人になってもその感覚は忘れています。だからこそ、多感な小中高の時期こそ本を読んでほしい。昔の自分にもメッセージを送りたいですね。本を読まないなんてもったいないぞ、と」

読書というと、読解力をつける方法、高尚な趣味と考えがちな10代にとって、「読書は最高の娯楽。気楽に始めてごらん」という優しいメッセージは、肩の力を抜いて読書ができるようになるきっかけなのだろう。

けんご 福岡県出身。現在は広告関係の会社員をしながらTikTokで「けんご@小説紹介(kengo_book)」として小説紹介をしているインフルエンサー。『残像に口紅を』(中央公論新社)や『交換ウソ日記』(スターツ出版)など、紹介した小説は多くの書店で品切れが相次いだ。これまでで十数作品が重版。21年12月には「第1回けんご大賞」を創設し、特別賞を入れて11冊の本を選考。「ベストオブけんご大賞」には綾崎隼著『死にたがりの君に贈る物語』(ポプラ社)を選んだ。本は図書館で借りるよりも買う派。Instagram(kengo_book)Twitter(kengo_book)