競技かるたの強豪校で中高6年間、かるたに没頭した朝日雄大君(東京・暁星高校3年/A級・5段)。全国屈指のかるたの実力者だが、コロナ禍に翻弄(ほんろう)され、退部を考えるまでに気持ちを追い詰められた。そんな苦境を部の仲間たちと乗り越え、この夏、団体戦・個人戦・東京都代表として3度の全国優勝を果たす偉業を達成した。(文・写真 中田宗孝)
かるたは「スポーツ」
サッカーや水泳に打ち込むスポーツ少年は、中学生になると競技かるた部に飛び込んだ。
「相手よりも早く札を取るのが気持ち良くて、自分の想像以上に競技かるたは『スポーツ』だったんです。引き分けのない競技というのも引かれた部分」と、当時初心者ながら勝ちに貪欲な一面をのぞかせていた。
部は幾多の全国優勝の実績を持つ強豪だ。中高生部員で一緒に対戦形式の練習を重ねて実力を伸ばしており、朝日君自身も中学時代から部内でめきめきと頭角を現していく。
「暁星の強さの一つは部員の『タテのつながり』。僕も部の強い人たちのかるたを見て、弱点の克服法や長所の生かし方を学んだり、自分ならどう試合を組み立てるか考えたりして、腕を磨いてきました」
耳を守るためイヤホン使わず
朝日君の取り手としての持ち味は「耳の良さ」だ。「『間』や『余韻』が上手な読手(読み札を読む役の人)の方だと、札取りだけに集中できて調子がどんどん良くなる」
大事な耳のケアのため、習い事の水泳をやめ、中高の生活で一度もイヤホンを使わずに過ごしてきた。
一方、自分の耳に合わない読手にあたると、途端に調子を崩すことも。「読手の好き嫌いが結構激しい(苦笑)。試合では当然自分好みの読手ばかりではありません。だから大会近くになると、読手経験の浅い部員に読んでもらって対策しています」
コロナ禍で大会中止、退部も考えた
高1で出場した「全国高校小倉百人一首かるた選手権大会(かるたの甲子園)」では、団体戦メンバーとして全国優勝に貢献した。
大会連覇に向けてまい進するはずだったが、高2になるとコロナ禍で普段の練習もままならない毎日が続いた。主要な大会は軒並み中止。1月に入ると、1都3県の緊急事態宣言で長期間の休部が決定的となり、朝日君は「……部をやめようと思いました」と明かす。
「西日本地域のかるた部は普通に練習や試合ができている情報が入ってきました。でも自分たちは何もできなくて、とても苦しい数カ月だったんです。受験生になるし、夏の大会は開催されるか分からない……」
かるたへの情熱を失いかけた朝日君を支えたのは、同級生の部員たちだった。彼らは、オンライン会議の場で「何のためにかるたをやってきたんだよ」「最後まで続けて優勝しようぜ」と、朝日君に奮起を促した。仲間の言葉で迷いが晴れ、かるたを続ける覚悟が決まった。「近江(全国大会の会場『近江神宮・近江勧学館』)で優勝する!」
自分は最強の王者だ
7月、同部は「かるたの甲子園」団体戦・決勝で、浦和明の星女子高校(埼玉)との試合に臨んだ。今大会の朝日君は「主将」を任されていた。
「『暁星の主将』は、誰が相手だとしても絶対に勝つ。試合では自分が最強の王者だと強く意識してます」
団体戦は5組が同時に試合を行い、3勝したチームが勝利となる。本来団体戦では、試合中に「(暁星)3連取!」「しっかりしろ!」といった、チームメイト間で「声掛け」ができるが、今大会は新型コロナ感染予防策のためそれが禁止された。
だが、朝日君は試合に集中しながらも、自分の両隣で勝負に挑む奥原望海君(3年)や、部長の橋口新之介君(3年)の善戦が力になったと話す。
「奥原君は序盤すごく良い入り方をしてチームに勢いをつけた。橋口君は序盤の劣勢を中盤で追いついて、終盤戦に突入するタイミングで暁星に良い流れを作ってくれたんです」
全国優勝で歓喜の涙
そんな仲間の健闘に応えるように、朝日君は圧倒的な試合運びで両校の主将同士の対決に見事完勝。「暁星3―2浦和明の星女子」で団体戦を制し、同校は大会通算13回目の全国優勝に輝いた。歓喜に沸く暁星メンバーの中には、こぼれる涙をTシャツで拭う朝日君の姿があった。
朝日君は、団体戦の翌日に行われた「個人戦A級(4段以上)」でも全国優勝。8月に開催された「紀の国わかやま総文2021」小倉百人一首かるた部門では「東京都代表」の主将を務め、チームを日本一へと導き、高校3冠を今夏成し遂げた。「団体戦で優勝をつかみ取った勢いそのままに、個人としても結果を残せました」と、笑顔で振り返った。