矢島聖蘭さん(東京・関東第一高校2年)は、競技かるたの高校生世代トップクラスの実力を持つ。7月に行われた「第45回全国高校小倉百人一首かるた選手権大会」(全日本かるた協会など主催)では、個人・団体ともに優勝を果たした。努力を積み重ねてきた彼女の、かるた漬けの日々に迫った。(文・中田宗孝、写真・幡原裕治)

250gのリストバンドつけて素振り

矢島さんは、小学生と中学生のときも全国優勝経験がある競技かるたの実力者だ。小学5年生のとき、先にかるたを始めていた姉の札を払う姿が「かっこよかった。私もやってみたい!」と感じ、始めた。それから年間700に迫る試合形式の練習を積み重ね、「誰にも負けない練習量を自分の自信に変えてきました」。

競技かるたの最高峰「クイーン」の座を目指し日々練習に励む矢島さん(A級・6段)

持ち味は、札を取る圧倒的なスピード。「手出しかるた」と呼ばれるスタイルで、読み札を読む「読手」が上の句の1音目を声に出した瞬間、「すぐに手が反応します」。普段の練習や対外試合がままならなかったコロナ禍の時期、手首に重さ250gのリストバンドをつけて毎日100本素振りの自主練を続け、速さに磨きをかけてきたという。

お手つきを恐れない

1音目だけでは「決まり字(その箇所まで読まれれば取り札だと確定できる上の句の文字列)」とならない札も多い。札を取りにいくのは、形勢を不利にしかねない「お手つき」を恐れぬ勇気と覚悟が必要だ。「多少のお手つきは受け入れる。それが自分」とポジティブに捉える。

狙った札に手を伸ばしつつ、「2音目を聞いて別の札へと取りを切り替えることもあります」。それでも対戦相手との1秒にも満たない駆け引きを制して札を奪取。練習量に裏打ちされた巧みな技術も兼ね備える。

練習漬けの日々、大学へ出稽古も

「高校生活の全てを私はかるたに注ぐ」。そう語る矢島さんの高2の上半期は、高校生が出場する3つの主要大会、「白瀧杯女流かるた高校選手権大会」「全国高校小倉百人一首かるた選手権大会(かるたの甲子園)」「2023かごしま総文・小倉百人一首かるた部門」で団体戦を含む4度の優勝を手にした。

「かるたの甲子園」の個人・団体戦で全国制覇の2冠に輝いた

「かるた奨学生」として入学した関東第一高校競技かるた部での活動に加え、早稲田大学かるた会へ出稽古に赴き、週7日の練習漬けの日々を過ごす。

団体戦では1年次から主将を任され、昨年は部を全国大会初出場に導いた主軸の一人となった。「部員たちのレベルアップのために私が伝えられることは精いっぱい届けようと、強めに指摘した日もあります。主将の自分ができる最善のことをすべてやってきた」

大舞台の豊富な経験から、メンタルの大切さも知る。東京都代表校を決める試合前日や、全国大会前の最後の練習後などの要所で長文のメールを部員たちに送り、少しでもプレッシャーを軽減できるよう努めた。

仲間とつかんだ全国優勝

7月、部は滋賀県の近江神宮(近江勧学館)で開催された「全国高校小倉百人一首かるた選手権大会(かるたの甲子園)」を迎えた。

中学からのかるた仲間である伊津野さん(左)と小西さん(右)は矢島さんの支えだ(写真・学校提供)

団体戦は5組同時に試合を行い、3勝したチームの勝利となる。決勝に進んだ関東第一高校は3−2で横浜平沼高校(神奈川)を破り全国初優勝を飾った。待望の瞬間、矢島さんはすぐに立ち上がれないほどの涙があふれた。

「3人で『関一』に入学して全国制覇!」は、中学からのかるた仲間だった同学年部員で団体戦メンバーの小西美彩子さん(2年)、伊津野弘さん(2年)との約束でもあった。彼らの夢はかなった。「美彩子と伊津野くんがいたから私は頑張れた。2人にはありがとうを伝えました」。涙で畳をぬらす彼女のまわりには、部員たちが集まり、歓喜の輪ができていた。

団体戦翌日の「個人戦A級(4段以上)」でも矢島さんは全国優勝を果たした。団体・個人戦の計12試合を全勝し、大会2冠を成し遂げた。

かるたで「自分は一番輝ける」

「かるたならずば抜けた結果を出せる、自分が一番輝ける競技」だという。習い事のピアノやテニスは長続きしなかった。たとえ何度試合に負けても、かるたを続けている原動力は、競技を始めたばかりのころ、小5のときの全国優勝の景色だ。「当時は勝ちにこだわっていたわけではなく無我夢中。でも優勝できたことが私にとって大きかった。この競技なら私の努力は報われる」

競技かるたの最高峰「クイーン」の座を目指す。「いつかきっと」の憧れでは決してない。昨年の大会で彼女は、あと2試合勝ち進めば、クイーンへの挑戦権を獲得できた確かな実績を残している。「今年もクイーンを狙いにいきます」と語気に力を込めた。