シーンと静まり返る会場。観客側も思わず固唾を呑む緊張感の中、部員は札の「読み手」の声に全身全霊をかけ集中……。相手より早くどれだけ札を取れるかで競う「競技かるた」は、スポーツのような激しい勝負の世界が繰り広げられる。今回はプレーヤーでなく「読み手」に注目。日本一の高校生読手(どくしゅ)となった伊東彩音さん(福島・安積黎明高校2年)に話を聞いた。(文・写真 野村麻里子)

毎日50首読みのどのケア欠かさず

漫画「ちはやふる」を読んで、百人一首の魅力を知った。「まさか自分がかるたをやる」と思ってなかったが、新入生歓迎会の部活発表を見て衝撃が走った。「読手をする先輩がすごくかっこよくて、きれいで……」。憧れの気持ちを胸に入部した。

とうきょう総文2022小倉百人一首部門の決勝戦などで読みを担当した伊東さん

普段は読手専門でなく、選手としても並行して練習。読みの練習をするのは基本的に自宅で行う。「読まない日を作らない」ことが大切で、毎日50首は読んで練習。のどのケアも欠かさず、眠るときはマスクをつけている。

読み独特の抑揚は、先輩や専任読手の音声を聞き、マネをすることで習得。発音も大事で、苦手な「ハ行」は特に重点的に練習している。その字を聞けば札を取れる「決まり字」を読むまでは、特に「明瞭さ」を出せるよう意識。句の意味も調べ上げ「和歌の世界が大好きになった」とほほ笑む。

読めば読むほどうまくなる

昨年夏に行われた文化部の全国大会「全国高校総合文化祭」小倉百人一首かるた部門のうち、「読手コンクールの部」で今年の最優秀読手となった。「聞き逃すまい」という選手の気迫で、キリキリと張り詰める会場での読み。大きなプレッシャーを感じながらの舞台だ。「緊張したけれど、せっかくの全国大会。楽しむためにこれまでの練習の毎日を信じました」

全国大会では鮮やかな袴姿で挑んだ

評価されたのは、下の句の最後の音を3秒延ばす「余韻」と、そのあと1秒空けて上の句の読む「間」が安定していたこと。「安定力はひたすら教本を読むことで身につく」と明かす。

かるたの「読み」の楽しさは、練習の成果が実感できるところにあるという。「読めば読むほどうまくなる、成長する。読みの世界はこれで完成、という終わりがないから楽しい!」