昨年3月の全国高校柔道選手権と、7 月の金鷲旗高校柔道大会を制し2冠に輝いた東海大浦安(千葉)柔道部。道場にいる時間は短く、特別な練習メニューもない。集中力を極限まで高めて攻め続ける姿勢が、強豪校の仲間入りにつながった。
(文・写真 小野哲史)
■防御の姿勢は取らない
「攻めろ、攻めろ!」「真っ向勝負だぞ!」。竹内徹監督がげきを飛ばす。
部員たちはその時、寝技の稽古をしていた。寝技で不利な場面では、普通は腹ばいやうつぶせになり、相手の攻撃をかわす。しかし「寝技で不利な状態になっても、常に攻撃的にいくことを求められています」と前田宗哉(3年)=東京・武蔵野六中出身=は言う。
劣勢になっても防御の姿勢を取らず、あおむけのままでも抵抗し、何とかして攻めるのだ。 その狙いは、常に攻めの意識を持つことにある。主将のウルフ・アロン(3年)=同・文京一中出身=は「押さえ込まれても攻め続けるのは、とてもしんどいです。でも、この練習により、試合でスタミナも切れなくなりました」と話す。
■短時間集中、礼儀正しく
立ち技の乱取り稽古でも、24人の部員が常に攻め続けた。16時20分に始まったこの日の稽古は、合間に小休止を入れながら19時前には終了。平日の練習は長くても2時間半、休日は午前中で練習を終える。朝練習も合宿も一切やらない。「短い時間なので途中で気が緩むことはありません」と前田。
強豪校の中でも練習量はかなり少ない方だが、重要なのは練習時間ではない。部員たちは短時間でも、緊張感を持ちながら全力で練習に取り組み、鍛える。「空いた時間に近所を走ったり、ジムで筋トレをしたりすることもある」とウルフが言うように、自分に足りない部分があると思えば、朝や夜、休日の午後を使い、各自の判断で補強する。
礼儀やあいさつもきちんとしている。この日の取材で道場を訪れると、部員の一人が素早くスリッパや椅子を用意してくれた。「柔道だけできても、社会では認められない。周りの人に応援してもらえる選手になった方が、より強くなれると思います」とウルフは言った。
特別難しいことに取り組んでいるわけではない。しかし、一つ一つの行いに対する部員の意識は高い。そこに強さのヒミツが垣間見えた。
■短時間練習は部員が発案
2010 年から短時間集中型の練習を始め、12 年に全国初制覇を果たしました。10 年までは毎朝のランニングもしていましたが、昨春卒業したベイカー茉秋(東海大)が1年生だった秋に「体重を増やすために夜はジムで筋トレをしているので、朝のランニングはやりたくないです」と言ってきたのです。眠い目をこすって走ることの効果に疑問を感じていたので、私は彼の意見を尊重し、思い切って早朝練習をやめました。
すると、ベイカーをまねしてジムに通い始めた多くの部員の体が、みるみる大きくなり、筋力が付いた。おまけに学校の授業にも集中するようになりました。
また、その年代は気持ちが強い選手が多く、練習からかなり激しくぶつかり合っていました。けがが心配だったので、練習時間を削り、小刻みに休憩を入れるようにしました。すると部員たちは一段と集中力が増し、故障者も少なくなったのです。これだ、と思いました。それ以来、短時間集中型の練習を続けています。
特別な練習メニューはありません。基本的な練習を、手を抜かずに、どれだけ集中してできるかが強さのヒミツだと私は考えています。生徒たちには強く、しかし謙虚な柔道家になってほしい。それが私の究極の願いです。
- 【チームデータ】1975 年創部。部員24人( 3 年生8 人、2 年生10 人、1 年生6 人)。2012 年、全国高校柔道選手権、金鷲旗高校柔道大会、全国高校総体(インターハイ)でそれぞれ初優勝し、史上4校目となる高校3冠に輝く。