私たちが生涯食事をするのに欠かせない「歯」。歯科医院には行っても、誰が歯を作り多くの人の食事を支えているのか、考えたことのある人は少ないと思います。高度な技術でミリよりも細かい単位で義歯などの技工物を作る、歯科技工士である父にどんな仕事をしているのか取材しました。(高校生記者・神崎リン=3年)
患者に合った歯を精密機械で作る
―普段、どんな仕事をしているの?
自社の得意先の歯科医院を訪れる、虫歯になった患者さんの歯を作っているよ。
患者さんの歯型を石こうの模型でとり、その模型を使用して、患者さん一人一人に合った色や形、歯の見え方などを考え、歯を作っているんだ。
―どこで、どんな職種の人たちと仕事しているの?
自宅の1階に仕事場があって、基本的にそこで同じ歯科技工士の仲間と歯を作って仕事をしているよ。歯を作るためにはたくさんの機械が必要になるから、仕事場にはいろいろな精密な機械があるんだ。
―1日の流れを教えて。
午前9時から仕事は始まる。大体午後2時まで外回りといって、得意先の歯科を回って、修繕しなければならない技工物を集めたり、作成し終わった技工物を配って回ったりしているよ。それが終わり次第、昼食を食べて、技工物の製作に取り掛かる。
新しい歯を作るのはもちろんのこと、完成した技工物の入念なチェック、納品業務など、その日までにやらなければいけないことがあるから、就業時間は不規則かな。ただ、夜の9時~10時くらいには終わるようにしているよ。
国家資格が必要、卒業後も学んで技術を磨く
―この仕事をするための技術は何が必要?
もちろん、歯を作る歯科技工術は必要になってくる。少なくとも、国家資格の取得は必要。学校(専門学校、短大、大学、大学校など)に通って、学んでこなければ就けない仕事だよね。
―その技術をどう身に付けたの? 学校で?
国家資格を取るために、学校に通って身に付けたよ。でもそれだけじゃ高い技術を身に付けることはできないから、学生時代には歯科に関わるバイトもして、本場の技術を実際に見て学んだかな。
学校卒業後は、本で独学で学んだこともあったし、講習会に参加して勉強したこともあった。自分から意欲的に学ぶことが求められてると思うよ。
―下積み時代で印象に残っているエピソードを教えて
毎日学校の授業が終わった後に夜中までバイトをして、歯科技工術を学んだことだよ。学校の授業で学ぶのに合わせて夜中までバイトをしたこともあったしね。それは体力的にも、精神的にも大変だったな。
ミリより小さい単位の繊細な作業がいる
―この仕事のやりがいを感じる瞬間は?
歯科を訪ねて、歯の形や色などに悩んで不満を抱えている患者さんと話をして、相手が最も求めている歯を時間をかけて製作する。そして、製作が終わったものが実際に患者さんの口腔内に装着されて、喜んで帰っていく姿を見たときかな。
特にやりがいを感じたのは、「納得のいく歯を作ってほしい」と直接患者さんから話をいただき、試行錯誤をして歯を作ったときだね。患者さんが最も納得のいく歯を作るために、何度も歯を作り直して、直接感謝され、喜んでいる笑顔を見たのはとても心に残っているよ。
―この仕事の厳しさ、大変なところは?
ミリメートルよりも小さい、マイクロメートル(㎛)の単位で歯型にすり合わせ、歯を作ることかな。少しでもずれてしまえばかみ合わせが悪くなったり、ふとした時に外れてしまう危険もあるからね。
他にも、患者さん一人一人歯の形が違うから、自分自身で実際にどのような造形にするのか考えなければいけないし、自分の満足がいくまでとことんやらなければ患者さんの喜んでくれるような歯を作ることができないことかな。
―この仕事に向いている人は?
仕事の厳しさのときにも言ったけど、マイクロメートルというとても細かい単位で歯を作らなければいけないから、「手先が器用であること」が必要。細かい調整を何度も繰り返して、自分の納得のいく技工物を作る「忍耐強さ」も必要かな。
離職率が高く技術者の高齢化が進む
―この仕事は将来、どんなふうに変わっていくと思う?
仕事の拘束時間が長かったり、不規則な休日等の理由で、現在、卒後5年以内の平均離職率が80パーセントを超えている。それに、歯科技工士のうち、約46.5パーセントが50歳以上という激しい高齢化が進んでいる業界なので、今まで以上に最新医療機器の機械化が進むと思う。
また、海外への委託や、最新のテクノロジーによる機械化も進むんじゃないかな。ただ、試行錯誤して作る技術は人間にしかないだろうし、日本の歯科技工士が全員なくなってしまうということはないとは考えているよ。
【取材後記】あらためて父を尊敬
今回取材をして、初めて父が仕事を通して感じていることを知りました。仕事場が家にあることもあり、歯科技工士という職業については幼いころから知っていました。けれど、何を考えてこの仕事を続けてきたのか、日常生活では見られないプロフェッショナルな父の姿を知り、一人の大人としてこの仕事を続ける父をより尊敬するようになりました。
また、世の中にはたくさんの知らない職業の人がいて、その仕事をしている人に支えられて生活しているのだと、リアルの社会を知るいい機会にもなりました。