坂口理愛(みちか)さん(熊本・御船高校3年)の書道作品「杜甫詩二首」を紹介します。中国・北魏時代(4~5世紀頃)の楷書で書かれたこの作品は、文化部の全国大会である全国高校総合文化祭(紀の国わかやま総文2021)の書道部門で文部科学大臣賞・奨励賞を受賞しました。日本一の作品はどのようにして出来上がったか、教えてもらいました。
中国の古典に惹かれて
―作品のテーマを教えてください。
中国・北魏時代(4~5世紀頃)の野趣あふれる美をもつ楷書をテーマとしました。
私は高校1年次からこの書体の力強さに惹かれて、古典研究、臨書学習を行ってきました。今回は、臨書学習で学んだことを生かし創作に挑戦しました。
全国総文祭へ出場するためには、まず県大会で最優秀賞を獲得し、県代表に選ばれなければなりません。日ごろから指導を受けている「構成美」「形態美」「線美」「墨色美」の4つの視点に注意しながら何枚も何枚も書きました。「絶対に全国へ出場する!」という強い意志で臨みました。
―日本一が決まった時、どう思いましたか?
全国総文祭の審査結果発表で最後に名前を呼ばれたとき、すぐには状況が理解できませんでした。頭が真っ白になった後、少しずつ実感が湧いてきたことを覚えています。
これまで何度も試行錯誤を重ね書き上げた作品なので、とてもうれしいです。
―こだわったり、工夫したりしたポイントは?
制作では、角ばった趣、鋭くキレのある線、横画の角度、重厚で力強い右払いなど、基となった古典の特徴を余すことなく表現することを心がけました。
また、紙面に対する文字の大きさ、上下左右の余白、墨量の変化についても、どの程度が最適か研究を重ねました。
書いては分析、書いては分析…練習重ね筆が消耗
―何が難しかったですか?
縦240センチ×横90センチという大きな紙に、大小80文字を書くことは、これまで取り組んだことがありませんでした。
書いては壁に掲示し診断分析、そして先生からの添削や助言をいただくことを何度も繰り返しながら作品の質を高めていきました。
練習では筆の消耗が早く何本か新しい筆に変えました。新しい筆の質感や毛筆の弾力の違いに慣れるまで時間がかかりました。
「自信もって」励まされ元気に
―制作中のエピソードを教えてください。
友人や後輩からの応援が印象に残っています。
私は制作途中、なかなか思うように表現できず悩んでいた時期がありました。そんな時、友人から「もっと自信を持て」と声をかけてもらったり、後輩からもらった応援メッセージを見たりして元気をもらい、自信を持つことができました。
全国大会での入賞を心から応援してくれたみんなの思いを胸に、作品制作に取り組みました。
―よい作品を書くためのコツを教えてください。
書は、古典作品に基づいた制作が肝心です。筆づかいなど技術を追求するだけではいけません。自ら作品の基として選んだ古典の歴史や時代背景、特徴を理解し、知識と技術の両輪で作品を高めていくことが重要です。