ベースの演奏動画をTwitterに投稿している、高校1年生のアヤコノさん。見ると思わず笑顔になるくらい楽しそうに、卓越したベースの技術を披露し、フォロワー数は4万人を突破するなど、注目を集めています。そんな彼女は、中学生のときに不登校を経験。苦しむ中で出会ったのがベースだと言います。学校に行けない。そんな時、どうすれば前向きに歩き出すことができるか。アヤコノさんの生き方や考え方に、ヒントが隠されていました。(安永美穂、写真は本人提供)

突然、学校に行けなくなって…

―「ヨルシカ」のサポートメンバーのかたとセッションしたり、ラジオで紹介されたりするなど、アヤコノさんのベーシストの活動に注目が集まっていますね! ベースを始めたきっかけは?

私は中学に入学してすぐ、学校に行きたいのに行けなくなってしまいました。2歳から続けていたエレクトーンもやめることになって……。そんな中で、ベースに出会いました。

さまざまなアーティストのベースソロをコピーしてTwitterで動画をアップしている

―中学時代に何かあったのでしょうか…?

いえ、特に何かが起きたわけではないんです。私の場合、自分でも理由がわからないのに、突然、学校に行けなくなったんです。

当時は「私の人生は終わったんじゃないか」と思うくらい、追い詰められていました。でも、音楽は大好きだったので、聴き続けていて。

しばらくしてから、ストレス発散のために「ドラムをやってみよう」と思って、思い切って音楽教室に行ってみたんです。そこで、ドラムのほかにギターとベースの体験レッスンも勧められ、初めてベースを演奏してみることになりました。

―そのときの感想は?

音を出したときの衝撃がすごかったです。ベースをアンプにつなげると、「ズーン」と体に響く音が出て。初めての体感で、「この音をもっと自在に出せるようになりたい!」って思いました。

14歳の誕生日にベースを買ってもらってからは、家でひたすら弾いていて、すぐに指に水ぶくれができたくらいです。

―今はどんなふうに練習しているんですか?

レッスンを受けたり、家でも練習していますが、心を動かされる音楽を動画配信サービスなどで探して、聴く時間も大切にしています。

「これ、弾いてみたい!」と思える曲に出合ったら、その曲を何度も聴いて自分で楽譜を起こし、忠実にコピーできるようにくり返し練習していきます。

「やりたいことを、やってよいのか」葛藤乗り越えて

―これまでの活動を振り返ってみて、大変だったことは?

ベースを始めたばかりの頃は、「学校に行けていないのに、やりたいことをやっていて良いのか」という葛藤がありました。

周りの人からは「不登校の子」という目で見られている自分がベースの演奏を頑張っても、認めてもらえないのではという不安もあって……。

愛犬のヒカルの毛並みをイメージした塗装の「アヤコノモデル」のベースを愛用

―そういう葛藤や不安は今もありますか?

昨年の春、新型コロナウイルスの影響で一斉休校になったことで「学校に行けていないのに」という罪悪感がやわらいだようです。初めて、心の底からベースを弾くことを楽しめるようになりました。

そして、Twitterで演奏の動画を発信していく中で、私のベースプレイを聴いて応援してくださる方々との出会いが増えてきました。その方々のおかげで、自分の演奏や自分から発信するという行動に自信をもてるようになって、今は「やりたいことをやって認めてもらえた」という実感があります。

「これをしていたら楽しい」「これなら人よりもたくさん努力できる」ということを自分で見つけ、それを発信できる場ができたことがうれしいです!

苦手を無理に頑張ったりしなくていいんだ

―不登校の経験を、今はどのようにとらえていますか?

理由が分からず不登校になり、追い詰められ、当時は「学校に行けない自分」を受け入れることが、すごく大変だったんです。

でも、専門家の方などに相談するうちに、自分の特性や抱えていたストレスへの理解が深まり、「学校という集団生活の場が合わない自分」を否定する必要はないんだと思えるようになりました。

周りに合わせるために、自分の得意なことをあきらめたり、苦手なことを無理に頑張ったりしなくていいんだなって。自分が持っているものを生かして生きていこうと、少しずつプラスに考えられるようになりました。自分が自分を受け入れられるようになってから、自分を受け入れてくれる人も増えたように思います。

これは尊敬するベーシストから頂いた言葉でもあるのですが、今は「自分の苦しみも誰かのプラスに変えられるアーティストになる」というのが私の目標です。

愛犬と一緒に。帽子がトレードマークになった

―Twitterでは抜毛症であることを公表されています。

無意識のうちに、自分で自分の髪の毛を抜いてしまう症状が、中1のときから続いています。髪の毛を抜いてしまうと家族は悲しみます。……罪悪感もあるけれど、自分の意思ではやめることができなくて。

治るに越したことはないですが、今は「この症状とどう付き合っていくか」を考えるようにしています。抜毛症の対策として帽子をかぶるようになったのですが、今では帽子は私のトレードマーク! 自分のマイナスをプラスに変えられたんじゃないかなと思います。

楽しいと思う気持ちを大切にしたい

―ベースを続ける中で、壁にぶつかった経験は?

最初は弾けるだけで楽しかった。なのに、続けるうちに「なんで私はベースをやっているんだろう?」と考えこんでしまった時期があります。でも、「自分が楽しいからベースを弾き始めたんだ」という原点を思い出したら、再び演奏を楽しめるようになりました。

自分が楽しんでいれば、自信をもって発信できるし、それを見てくださった方も楽しい気持ちを受け取れるように思います。自分が心から楽しいと思えたこと、感動したこと、良い意味で衝撃を受けたこと。そういうことを思い出してみることが、自分に力を与えてくれる気がします。また今は、ファンの方の存在がとてもエネルギーになっています。

―かつてのアヤコノさんのように、不登校に悩んだり苦しんだりしている人がたくさんいます。ぜひメッセージをください。

私は「なんで学校に行けないんだろう」と自分を責めていた時期もあります。ですが、よく考えてみると、家でだって勉強はできる。今はフリースクールや通信制の学校といった選択肢もあります。

一度、「学校」という枠から自分を解き放ってみると、自分が本当に楽しめるものが見つかるかもしれません。

自分の中でマイナスに思えたり、他の人から「普通じゃない」って言われたりすることって、それが本当にマイナスだとは限らないと思うんです。みんなが言う「普通」に自分を近づけようとする必要はない。大切なのは「自分はこれがしたい」「これはしたくない」という自分自身の気持ちとしっかり向き合うこと。私は不登校がきっかけで、自分の良さを生かせる生き方を選ぼうと思えるようになりました。

もし、私と同じようなことに悩んでいる人がいたら、「普通」という枠に無理やり自分を当てはめようせずに、自分に合った選択をしてほしいなと思います。

【ミニQ&A】憧れは椎名林檎さん

Q.邦楽と洋楽、どちらをよく聴きますか?

A.邦楽中心です!

以前は、歌詞の内容やアーティストのメッセージ性に注目することが多かったので、邦楽が中心でした。でも、最近はベースのメロディラインやインスト(歌詞のない曲)の魅力にもひきつけられるようになって、洋楽もたくさん聴くようになりました。

Q.ベースのどんなところが楽しいと感じますか?

A.弾けるようになるまでのプロセス全部

弦に指が当たる角度とか、演奏するときのほんの少しのテンションの違いで全く違った音色になるところがおもしろいです。弾きたいと思った曲を弾けるようになるには、どんなことをすればいいかを自分で考え、できるようになるまで必要な練習を重ねていく。そういうプロセスの全部を楽しんでいます。

Q.憧れている人はいますか?

A.椎名林檎さん!

椎名林檎さんの大人の色気と子どもみたいな遊び心をあわせ持っているところが大好き! 海外のバンドで好きなのはVulfpeck。ベーシストでは、ハマ・オカモトさん、あきらかにあきらさんが憧れです。

Q.とってもおしゃれでいらっしゃいますね! 好きな洋服のブランドは?

A.これ…というブランドはないです

ですが、WEBのセレクトショップの「osharewalker(オシャレウォーカー)」の服は柄がおしゃれで気に入っています!

Q.趣味はありますか?

A.手先を動かすのが得意

小さなビーズを粘着シートに貼り付け、絵に仕上げる「ダイヤモンドアート」にハマっています。

Q.今いちばん食べたいものは?

A.お寿司!

一生分のお寿司! 食べたい! この間、初めて食べた「えんがわ」がおいしかったです。

Q.将来の夢は?

A.誰かのプラスになる存在に

音楽に限らず、自分の中にあるものを表現することで誰かのプラスになれる道を探っていきたいです。感謝と情熱がモットーです。