吹奏楽部やオーケストラ部で合奏を楽しんでいる高校生は多いと思います。練習に必要な「楽譜」は、誰の手でどのようにして作られるか知っていますか? 私の父は、楽譜を書くアレンジャー(編曲家)です。どんな仕事をしているのかインタビューしました。(高校生記者・ざわ=2年)

吹奏楽や金管バンド用に編曲するプロフェッショナル

―仕事内容は?

おおまかに言うと、アレンジャー(編曲家)として曲を主に吹奏楽、金管バンド、器楽用にアレンジしているよ。

仕事をしているところ

まず、会社から資料をもらうよ。アレンジ資料、音資料と楽譜資料などだね。そして、曲の音源をもとにして採譜(耳コピ)をしていくんだ。

それをもとに、吹奏楽、器楽、アンサンブルなど決められた編成で、スコアを書くんだ。ここからは分業かな。別の人が演奏用の楽譜を作る。そして、最後にチェックして、印刷して出版するよ。

―どこで、どんな人と仕事をするの?

主に自宅だね。1週間に1度くらい、オフィスに行く。そこで、アレンジャーそれぞれが担当する曲のアレンジを互いに見せ合って、意見や修正を出してより良いアレンジにするよ。

オフィスでは、楽譜を売る人、印刷する人、発送や領収書、宣伝などをする事務の人、あとは他のアレンジャーたちと仕事をしているよ。

スコア(左)と、スコアになる前の比較

12年間サラリーマンをしながら夢を追った

―昔から音楽が好きだったの?

そうだね。中学で吹奏楽部に入った。そのころの将来の夢は作曲家だったんだ。

高校では部活に入らずに校内の友達とバンドを組み、文化祭のステージなどで発表していたな。ドラマーになりたいって夢も思い描いていた。普通の大学に進学したんだけれど、将来どんな仕事がしたいか本格的に考えるようになって……やっぱり音楽が好きで、卒業後に音楽大学に通いなおしたんだ。

―いつお仕事をするの?

勤務時間が決まっているわけでなく、不規則なんだ。難しい作業は、集中するために朝4時半に起きてがーっとやることが多いかな。

―この仕事をする上での技術は何が必要?

耳の良さや、音感。あとは、音楽系のソフトのコンピュータの操作の技術が必要だね。

―その技術をどう身につけたの?

大学で身につけたかな。仕事で使う「耳コピ」などは、趣味で大学の頃からやっていたんだ。「この曲いい響きだなあ、なんでだろう」って、分析していた。その後、音楽大学に入ってから、専門的な技術を学んでいったよ。

―この仕事を目指した時期と、目指そうと思ったきっかけは?

音楽大学4年生の頃から、しっかりと楽譜を書く仕事を目指し始めていた。けれど、実際にアレンジャーになるのはそう簡単なことではないんだよ。

まず、楽譜を作る会社に営業マンとして12年勤めていたんだ。サラリーマンとして働きながら、自分で楽譜を書き、アピールし始めた。それで、あるとき力を認められて、アレンジャーとして転職することができたんだよ。

耳コピの時の楽譜

編曲した曲が演奏されるときにやりがいを感じる

―下積み時代で印象に残っているエピソードを教えて。

前の会社で勤めてたときに、アレンジャー募集の広告を見つけたんだ。1曲編曲して、送ってみたけれど……それきりで、お仕事の話はこなかった。

3年ほど経った後、まだ前の会社で働いているときだった。営業マンとして、さっき話した編曲を1曲だけ応募した会社に行ったよ。そこで、「実は御社にアレンジの応募をしたことあるんです」って言ったら驚かれて、2曲目を任せてもらうことになったんだ。

出来上がりのパート譜とスコア

―この仕事のやりがいを感じる瞬間は? 

それはもう、実際に曲が演奏される「現場」に行った時だね。

中学校や小学校、一般バンドなどが、自分の曲を演奏している音が聴けたり、自分が書いた音を実際に聴いたりすると、とてもやりがいを感じるよ。

―この仕事の厳しさ、大変なところはどんなところ? 

厳しさ…。そうだなあ、仕事をし始めたときが大変だったかな。書き直しや修正で、紙が真っ赤になることもあったんだ。

演奏する子どもたちの立場に立つ想像力が大切

―この仕事に向いている人はどんな人?

音楽の技術は大切。だけど、小中学校や高校など教育現場で使われる楽譜だから、自分の実力を駆使した編曲や好みの音ばかり使ってしまうのは、あまり良いことではないんだ。

演奏する人に優しい音域にするなど、演奏する人のことを考えながら編曲ができる「柔軟性」や「想像力」が大切だ。実用性が求められる。だから、芸術家肌の人よりも職人気質があることのほうが大切かも。

―この仕事は将来、どんな風に変わっていくと思う?

今は紙に楽譜を印刷しているよね。だけど、現実的にいうとそのうちに、データで購入する人が増えていくだろう。紙ベースから、電子ベースになるかも。

あとは、少子化で部活をする小中高生が減ると、音楽をやる人口も減る。吹奏楽部などの部活の規模が小さくなっていくかもしれないよね。でも、「音楽をやりたい」っていう子は絶対にいるから、そういう人がいる限りやり続けるよ。あとは、吹奏楽以外に多様化するかも。軽音楽部用の楽譜の編曲みたいにね。

―この仕事を目指す高校生が今やっておいたほうがよいことは?

好きなことをとことんやったほうがいい。音楽系の部活やっているなら、そこでやっている音楽をとことん追求して、深く学んでほしい。

そして、置かれた環境で目一杯やってほしい。自分は学生時代にバンドやっていたんだ。当時やっていた曲は今も役にたっているよ。環境はそれぞれ違う。けれど、その環境の中で頑張ってほしい。

仕事に使っているキーボード

【取材後記】音楽が大好きな父、好きを追求する大切さに気付いた

取材によってあまり知らなかった父の仕事を、もう少し詳しく学んだとき、父は本当に音楽が好きなんだと感じました。私は、父ほど音楽に詳しくないけれど、自分の好きなことをとことん追求することが大切だと、取材を通して気づかされました。

わたしも、きっと皆さんも、新型コロナウイルスによって、行事や思い出作りなどできなくなったことがたくさんあると思います。しかし、「置かれた環境で目一杯頑張れ」という言葉を聞いて、この環境で前へ進むことができたら、それは将来、自分自身にとっての大きな力になることに気づきました。だから、私は「できなくなったことばかりをみて落ち込まずに、できることを精一杯楽しんでいこう」と思いました。