県立浦和高校(埼玉)グリークラブは、全国でも珍しい高校の男声合唱部。大きな声で歌うことができない苦しい日々は今もなお続いている。しかし、決して悲観してはいない。部長の糟川航太郎君(3年)を中心に持ち前の明るさを維持しながら、今できることを精いっぱい取り組む。(小野哲史、写真は学校提供)

自主練習が続く日々

―自粛期間中は、どのように過ごしてきましたか?

3月から休校に入り、何度か登校する日はありましたが、部活動は一切できませんでした。1、2年生主体で、引退した3年生やOBも出演する年1回の定期演奏会を3月25日に予定していて、一度は4月11日に延期になったものの、結局、4月3日に中止となりました。

厳しい状況の中、62人という大所帯をまとめてきた部長の糟川航太郎君

その時点では、秋の関東大会や全国大会に続く8月下旬の埼玉県合唱コンクールを目指していましたが、それも5月に中止が決まりました。

学校には来られませんから、最初はZoomを使ってみんなで合わせて歌ってみようとしましたが、タイムラグが生じてうまくいきませんでした。仕方がないので、パートリーダーが1週間ごとに「ここからここまでやっておいてね」と課題を出し、各自で練習するだけでした。どこかで合わせることもまったくできず、それがずっと続きました。

マスクをして歌うのは息が苦しい……

―現在はどのように活動できていますか?

6月8日に学校が再開し、部活動は22日からできるようになりました。ただ、音楽の歌唱活動は控えるようにという県の方針もあり、合唱はできませんでした。再開から1週間は口を開けては歌わず、フェイスシールドとマスクをつけてハミングだけです。

活動中はフェイスシールドとマスクの着用を徹底している

ちょうどこの時期、新入生の勧誘活動もやっていて、29日の本入部からは1年生も加わり、しっかり換気をしながらパートごとに練習しています。フェイスシールドとマスクをつけて歌うと、呼吸が苦しく、熱気がこもって暑くなるので大変です。

それでも1年生が16人も入部してくれたのは良かったです。勧誘活動も例年より期間が短く制限がありました……。顧問の桜井寛先生から「今は大変な時期で合唱の未来は危うい。でも、グリークラブを未来につなげるために頑張って勧誘しよう」と言われたのが励みになりました。

大会中止に「あぁやっぱり」

―演奏会やコンクールが次々と中止になり、部員たちはどんな様子でしたか?

自分たちが頑張って最後に結果を出して終わりたかったので、県合唱コンクールの中止は残念でした。ですが、野球の甲子園や吹奏楽部の全国大会も中止でしたから、「あぁやっぱりか」と、覚悟はしていました。

吹奏楽の中止を聞いた頃から、僕たちは今後どうしようかと話し合いました。「悔しいことを嘆いてもしょうがない」「これから何ができるか」「できる時間を最大限に使って、できることをやるだけ」という前向きな声が多かったです。

ただ、例年7月下旬に3泊4日で行っている合宿も中止になったのが個人的には寂しいです。合宿の大きな目的な歌の技術ですが、部員の親睦を深める目的でサッカー大会をしたり、夜はワイワイ楽しく過ごしたりするので、思い出にも残るからです。

全員で合わせて歌えただけで楽しい

―今後の目標は?

8月に保護者やOBなど近しい人だけを招待したミニコンサートを予定しています。演奏時間30分ほどで、グリークラブが代々受け継いできた「愛唱歌」や校歌など4曲を歌います。練習できる時間や環境が限られていますが、今はそこに向かって頑張っています。

パート練習も換気やソーシャルディスタンスを守って行う

―新型コロナウイルスの流行を通じて、糟川君ご自身が得た気づきはありましたか?

この時期、たくさんの人たちがネット上で音源を合わせて合唱をやろうという企画があり、僕も少し参加してみましたが、やはり生で歌うのが一番だなと感じました。みんなで一緒に歌う空間がいかに貴いものだったかと思い知りました。

今は合わせるときは音楽室でやらずに外の中庭でやっています。先日、2、3年生は久しぶりに、そして1年生も初めて加わり、初めて全員で合わせて歌いました。音源を聞いて確認したらハーモニーが崩れていましたが、歌えただけでとても楽しかったです。

創部年不明(最古の活動記録は1963年)。部員62人(3年生23人、2年生23人、1年生16人)。全日本合唱コンクール全国大会2008年銀賞、15年銅賞、17年金賞。通常時の練習日は平日15:30~18:00、休日8:30~12:30、日曜はオフ。現在は1日90分で週3日、週休日は120分。主な活動場所は音楽室。