桜修館中等教育学校(東京)弓道部は、ここ3年連続、個人で全国大会に出場し、昨夏のインターハイでは女子団体が16強入りを果たした。限られた時間と練習環境の中で、一人ひとりが集中力を研ぎ澄ませながら、理想とする〝射型〟を追い求めている。(文・写真 小野哲史)

「当てたい」雑念は捨てる

和やかに談笑していた部員たちが練習を始めると、道場は張り詰めた空気に包まれた。

集中して練習に励む

弓道には「正射必中」という言葉がある。正しく射られた矢は、必ずあたるという意味だ。言い換えれば、「的を外したときは、体の動きや心の部分で何らかの問題がある」と部長の永井陽大(5年=高校2年)は話す。

「いかに正しい射型を身につけられるかが重要。的にあてたいという気持ちは雑念でしかありません」

すぐに周りに頼らない

日々の稽古は、的を目がけてひたすら弓を射ることを繰り返す。地道な作業だが、基本の反復でしか、正しい射型は得られない。近道はない。

ただ、個人練習の射込みでは、モニターで自分の動きを確認するなどの工夫をしている。

「自分の体を客観的に見られるので効果的。桜修館では自分の課題や問題点はできるだけ自分一人で解決し、それでもわからないときは先生に相談します」(林玲音・5年)

心を落ち着かせ練習を重ねる

練習場所がない時は観察してイメトレ

学校の弓道場はそれほど広くない。

前期生(中学生)と一緒に練習する曜日もあり、大人数になるほど、弓を射る回数は減る。

そんなときは「『見取り稽古』で学ぶ」と三橋結子(4年=高校1年)は言う。「人の射を見て、こういう引き方をすると、矢はあのように飛ぶんだなとイメージしています」

瞑想してやるべきことを整理する

弓道では正しい射型の習得とともに精神面のコントロールも不可欠。

林の現在の課題もまさにその点にあると自己分析する。

「秋までは先輩がいて引っ張ってくれましたが、最高学年になった今、私たちがその役割を担います。でも、メンタルを鍛える明確な方法があるわけではない。できることとしては、練習前の黙想で自分がやるべきことを整理することで、一射一射に集中しています」

28メートル先にある直径36センチの的を射抜く弓道。常に視線を自分に向けることが上達への一歩になる。

集中を途切れさせないように意識する

射込み

的を狙って実際に弓を射る個人練習。各自が課題や改善点を意識しながら、次々に射っていく。この反復によって正しい射型を身につける

射込み

モニターで動きを確認

射込みを行う際、ビデオカメラとモニターで自分の動きをチェックする。客観的に確認できるので、修正点や改善点を見つけやすい

モニター練習

練習前の黙想

練習前や試合前に的に向かって約2分間、黙想する。気持ちを落ち着かせるとともに、その日、どんなテーマを持って練習するかを頭の中で整理する

瞑想

巻きわらネット

的が遠くにあると、あてたいという思いが生じ、本来の射型を崩してしまう。それを防ぐために、至近距離にぶら下げたネットに向かって矢を射る。自分の射型だけに集中しやすい

巻きわらネット

平日の練習日の流れ

クラスごとに授業の終了時間が異なるため、道場に来た人から随時開始

早い人は15:50~

・射込み(的に向かって射る個人練習)

・試合前や不定期で立ち練習(試合形式)

・選手選考のための競射を行うこともある

18:00練習終了

部員にインタビュー

永井陽大(ようだい・2年、部長)

試行錯誤が楽しい

今の部員は全員が中学から競技を始め、僕も今年度で5年目になります。

弓道の面白さは、自分で試行錯誤しながら正しい射に近づけていく過程にあります。うまく言い換えられているかわかりませんが、「最適会(会とは射法の動作の一つで、弓を引き、発射のタイミングを待っている状態)を探す」という感覚です。

1本1本集中する

弓道は、上腕三頭筋やインナーマッスルといった日常生活ではあまり使わない筋力が不可欠です。

でも、そのための筋トレを行うことはなく、弓を引くことで筋力アップを図っています。弓道で使う筋肉は弓道の動きでしか養えないという考えからです。

メンタルを鍛えるという点は、1本1本を集中して射ることに尽きます。的ではなく、自分の動きだけに意識を向けることが重要です。

部長の永井

林玲音(れね・2年、副部長)

やるべきことをやるのが大切

高校から弓道を始めて、3年間で結果を出さないといけないという学校が多い中、桜修館は中高一貫なので、中学時代にじっくり基礎を学べるという利点があります。

昨年度まで顧問だった乃美弘樹先生は、「的中させるだけがすべてではない。自分がやるべきことをやるのが大切」という教えでした。

実際、練習でも試合でもやらなければいけないことは変わらないので、それを普段から意識しています。

まず自分で考え、それから人に聞く

昨年のインターハイも、緊張はしましたが、だからこそその点を頭に入れて本番を迎え、精神面のコントロールという部分ではある程度できたと思います。

当初はうまく行かないときはまず自分で考え、解決できなかったら先生に相談するというやり方でした。

ただ、周りにすごい先輩や同期もいるので聞かないのはもったいない。最近はそう考えて、人に聞く機会が増えています。

副部長の林

三橋結子(1年)

先輩の射が受け継がれる

桜修館は、昨年度まで顧問だった乃美弘樹先生や今年度から顧問の内田裕士先生の指導と、そうした先生から学んだ先輩方の射が素晴らしく、それが毎年受け継がれています。環境の良さが強い部でいられる一つの要因だと思います。

呼吸でメントレ

技術的に意識しているポイントはいくつかあります。

メンタルをコントロールするためには、練習前の黙想のとき、吸った時間の2倍の長さで息を吐いています。これによって副交感神経が優位になり、気持ちを静めることができます。

試合の直前にも同じように行うと、必要以上に緊張することなく、練習と同じような精神状態で試合に臨めます。

ただ、それでも夏のインターハイでは、自分の力を発揮できた射もあれば、そうではない射もありました。うまく行かなかったときは、欲が出てしまった部分が多く、それが今後の課題です。

三橋結子

顧問にインタビュー

内田裕士監督

具体的な例を挙げて伝える

今年度から後期生(高校生)の顧問になりました。

指導の際、感覚的に伝えたいこともありますが、こちらの意図したことが正確に伝わるとは限りません。

ですからなるべく理論的に、言葉にして具体的な例を示しながら、その場で理解してもらえるような指導を心がけています。

細かく言わなくても生徒が自立

ただ、生徒は試合を目標にして、自分たちで考えて取り組んでいますし、勉強も含めてメリハリをつけられる生徒ばかりです。

私がそれほど事細かにあれこれ言わなくとも、しっかりやってくれています。

正しい型を自分の体で表現する楽しさを知って

生徒には弓道において、試行錯誤の楽しさを感じてほしいです。

正しいと言われている型はありますが、一人ひとりの骨格や筋肉が違います。そこで理論的な部分はかみ砕いて考えつつ、それを自分の体でどのように表現するかを突き詰めてほしいですね。

弓道を通していろいろな人との出会いや様々な経験を、日々の生活や将来に生かしてほしいと思います。

内田監督

桜修館中等教育学校弓道部
2006年創部。部員30人(6年生8人、5年生10人、4年生12人)。全国選抜大会出場2014~17年(17年は女子個人優勝)、インターハイ出場2013、18、19年など。練習日は火・金・土曜と、月曜か木曜の週4日。授業がない土曜は午前と午後で部員を分けて行う。水曜日は希望者による自主練習。練習場所は学校の弓道場や駒沢公園弓道場など。