都内でも有数の中高一貫進学校である、豊島岡女子学園高校(東京)コーラス部。毎年多くの難関大学合格者を送り出す一方、合唱の強豪校としても有名だ。昨年は「第86回NHK全国学校音楽コンクール(Nコン)」で初の金賞を受賞。今回は同校コーラス部を訪ねて強さの秘密に迫った。(文・久保陽子、写真・野村麻里子)

9割が未経験からのスタート

同校を訪れたのは冬休みに入って間もないクリスマス当日。音楽室をのぞくと、曲の合間でパートリーダーたちからのチェックが部員たちに伝えられているところだった。

パートリーダーが指摘。フレーズごとにパートリーダーたちがそれぞれ注意点を伝え、確認しながら練習する

リーダーは全員が2年生。同部は受験のため、2年生の終わりに一斉に引退する。そのため同部では3年生部員が存在しないという、強豪校としては珍しいスタイルを持つ。

合唱経験者が多いのかと思いきや、意外にも「一貫校なので中学からの入部ですが、9割が未経験からのスタートです」と副部長の松本彩実さん(2年)は語る。

入部時は初心者ぞろいだが、一貫校なので中高合わせて足掛け5年間の練習期間がある。「最初はレベルの高さに驚いて……。練習に慣れるまでは大変でしたね」と言うのは、同じく副部長の江渕うめのさん(2年)だ。

インタビューに答えてくれた2年生の副部長・江渕うめのさん(写真左)と松本彩果さん(同右)。「みんなの力をうまく引き出していきたい」とニッコリ

歌詞の解釈を細かいところまで考察

普段の練習は、前日までの内容によって柔軟に変化する。パート練習だけの日や全員での"合わせ"中心などさまざまだが、その中で力を入れているのは「言葉に対する表現」だという。

パート練習。パートごとに輪になり、互いの表情を確認しながら歌っていく

「日本語をいかに発音して表現するか、いつも考えるようにしています」(松本さん)、「グループに分かれて歌詞から何を感じるか、その印象を話し合ってイメージを共有するようにしています」(江渕さん)と、歌詞の細部にまで意識を向け、より聞き手に伝わる音楽を生み出す工夫を重ねてきた。

 

現在、59人が在籍。コンクールには2年生による審査オーディションを経て、40人前後までメンバーが絞られる。

「縦横のつながりも含め、これだけ大勢だとまるで小さな社会のようです。もちろん、練習では意見がぶつかることも。その時は早めに問題点を見極め、ときには先生からアドバイスを受けて解決するようにしています」と二人は語る。

びっしりと注意点が書き込まれた楽譜

練習は「1時間15分だけ」 部活も勉強も両立

昨年度から週6の練習が5日になった。さらに午後5時には部活終了が決められているので、日々の活動は1時間15分だけという短い時間で行われる。

 

「時間が限られているため、かえって集中できるようになりました。部活に来たら意識をサッと切り替えます」(松本さん)

表情の表現からも音楽は始まっている。全身の心のトーンをそろえて声を出す

さらに進学校として、成績の向上も重要な課題だ。午後5時に部活が終わると、すぐさま"勉強モード"にチェンジ。「顧問の柴田先生からも勉強するように!と言われています」と、江渕さんは笑顔を見せる。

副部長によるチェック。リーダーたちはときにユーモアを交えながら部員たちにアドバイスする

昨年は10年連続出場にして初のNコン金賞という偉業を成し遂げた同クラブ。今後の活動として「先生からの指導をもとに、自分たちが主体となってさらに表現力を深めたい」と松本さん。

江渕さんは「みんながいるからと気を抜かず、全員が意欲的に、真摯に歌に取り組みたいです」と瞳を輝かせた。

輝く笑顔で合唱を披露してくれた

同部のモットーは「一人ひとりが主役」。部員全員が主体的に取り組む姿勢を軸に、ステージではそのパワーをひとつにまとめ聴衆に作品の情景を歌に乗せ、届けている。

全パートそろっての練習。パートリーダーからのチェックを受けながら表現力を磨く

顧問・柴田由美先生

顧問の柴田先生が指導に立つと、生徒たちの表情もより引き締まったものに

同部の指導を始めて37年になりますが、現在の部員たちはこちらが指導することに対しての反応が早く、しっかりと答えを持ってくる子たちですね。実は「ほめないこと」が私の特徴。音楽に天井はなく、彼女たちの気を緩めないためにもめったにほめません。そのぶん、ほめると本当に喜びます。常に「あなたが今、何を考えているか」と生徒に問いかけ、それをどのように表現していけばいいかを心がけるようにしています。

 

コーラス部の持ち物拝見

のどあめ、飲み物、メトロノームは部活中の必須アイテム

マストアイテム

オペラの台本

文化祭で発表する舞台での注意点が細かく書き込まれた用紙。生徒たちのさまざまな意見が反映されている

オペラの台本

ホッチキス練習

足を開き、重心を落とした姿勢での発声は貴重なフィジカルトレーニングのひとつ

部員59人(1年生31人、2年生28人、中学生は72人)。全日本合唱コンクールやNコンなどのコンクールで多数の受賞歴を持つ。2019年にNコン高校の部で金賞受賞。これは17年の銅賞、18年の銀賞に続いてのトップ初制覇となった。文化祭の「桃李祭」では、中高の部員たちが全員一緒にステージに立つ。