「硬派継承」を約束
「フレー、フレー戸畑!」
3 月23 日、北九州市民球場での九州高校野球福岡県北部地区予選。1塁側スタンドから大声が響き渡った。戸畑高校第59 代応援団長・武久結香さん(3年)だ。味方スタンドを一つにまとめて、締めは腰を深く折って「押忍(オッス)!」。「應援團」と旧字体を残した大きな襟章と腕章が伝統の重みを伝える。
十数年前から男子部員が減少。一方で、女子から「入りたい」との声が高まってきた。「従来の応援メニューを変えない」との約束で、入部が許された。女子だけになって12 年。当初の約束通り、礼節と形を重んじる「硬派」をしっかりと継承している。
〝演武〟30 種
入部すると太鼓やブラスバンド演奏に合わせて、コンバットマーチなど30 種(各2 分前後)のパフォーマンスを夏までに覚える。姿勢を正し、上下左右に手を振り、拳を突く。
「〝演舞〟ではない。〝演武〟だ」と、OB から指導を受ける。手の握り、高さ、角度、仲間との間合いなど細かい点もおろそかにせず、全員が寸分の乱れなくこなすのが目標。「戦っている仲間の思いを感じながら、本気で対戦相手を倒す」気概で臨んでいる。
涙こらえて
副団長の岩崎史歩さん(3年)はクラシックバレエ歴10年。中学生の時、演武を見て「りりしい姿に衝撃を受けた」。1年時の野球部の試合。相手にリードされる展開の中、「勝つ」気持ちで一心に拳を突き、声を出し続けた。追い上げムードが高まると涙が出そうになったが、「人前で感情をあらわにしてはいけない」と〝押忍〟の心を思い起こし必死でこらえたという。今、「応援には力がある」と信じる。
相手が千人でもひるまない
進学校だけに、授業優先で全校応援の機会は少ない。昨年夏の高校野球県予選で、対戦校は全校応援でスタンドを埋めた。
一方、戸畑高校は授業のため、生徒は応援団員だけ。人数で圧倒され、試合でも先制されながらも、団員は一歩もひるまなかった。すると、野球部員は見事な逆転劇を演じてくれた。野球部の末冨竜司主将(3年)は「他校の男子応援団より迫力があり、励みになる。ピンチの時のエールに奮い立つ。応援団が頑張るから、僕たちも頑張る」と話す。
2年生4人も中学時代は運動部で「応援される立場から、する立場」に変わった。ソフトボール部員だった八田彩水さんは「人のために尽くすことがかっこいい」との思いを強めた。
全員で決めた今年度の目標は「懸」。「一生懸命の懸。懸命に練習し応援することで、人と伝統の懸け橋になりたい」と、武久結香団長はきっぱりと語った。
応援団メモ:
部員10 人(3年生4人、2年生6人)。指揮する団長、副団長とスタンドに立つ親衛隊、それに太鼓打ち、水分補給、などを務める裏方のマネジャーからなる。練習は放課後毎日午後7時まで。2 ~3キロのランニングと演武。野球部の応援のほか、体育祭、文化祭、予餞(よせん)会、壮行会で演武を披露。