野球応援の練習をする部員たち

横浜隼人高校(神奈川)ソングリーディング部は、チアダンスで全国大会出場を目指す一方で、硬式野球部や軟式野球部の応援に力を入れている。野球応援係を務める髙坂梨音さん(3年)に、チアに懸ける思いを聞いた。

野球応援のレパートリーは20曲以上

――ソングリーディング部の特徴は?

全身全霊で応援することを心から楽しみ、スタンドから思いを届けています。チアダンスはチアスピリット(応援する心)、ポジティブスプリット(前向きな心)、ボランティアスピリット(誰かの役に立ちたいという心)を大切にして、笑顔で力強く踊る、「とても清らかな競技」です。私たちはこのスピリットを大切に、部活動を含め、学校生活も送っています。一生懸命頑張り、ひたむきに取り組む姿勢は人の心を打ち、周囲の環境までも明るくすると信じています。

野球応援は、そのスピリットを最も生かし、より多くの人と思いを共有できるものです。一生懸命な相手を応援するには自らが全身全霊を尽くさないといけないと思っています。

――野球応援ではどんな曲で踊るの?

アフリカシンフォニーやサウスポーなど高校野球の定番曲をはじめ、得点したときの「隼人健児の歌」は隼人オリジナル曲でもあります。全部で20曲以上あるのですが、歌詞もメロディーもすべて暗譜しています。

ひたむきな全力さ、伝わると信じて

――野球の応援にどのように力を入れているの?

私たちは競技チアダンスで全国大会出場を目指して日々練習を行っています。そのため、野球応援を一年中できるわけではありません。練習は、シーズン2カ月前から、自らの大会オーディションと平行して始めます。その中で、どうすれば応援がより盛り上がるのか、選手に思いが届くのかを、野球応援係が筆頭になり毎年向上を目指して練習に励んでいます。

「ひたむきな全力さ」が、人の心を打つと信じて、すべての活動に全力を尽くす気概を持っています。自分たちをきっかけとして、横浜隼人がすばらしい学校であることを多くの方に知ってもらいたいです。

――応援メンバーはどうやって決めるの?

2・3年生と審査で認められた1年生が参加できます。大会2週間前に「野球応援選手権」を開いて、2年生が1年生を審査します。私たちの部活には常駐するコーチがいません。そのため、上級生が責任をもって部活を仕切ります

――審査のポイントは?

表情、アームモーションの強さ、持久力や、「野球部に勝ってほしい」という思いが伝わるか、振りやメロディー、歌詞が正確かなどです。アームモーションというのは、ポンポンの動きです。チアダンスでは、ポンポンを動かす腕の力の強さ、動かす過程が見えない俊敏さが必要です。

選ぶことが目的ではなく、あくまでみんなが心から全力で応援できるようにするために行っています。「応援することは何か」考えるきっかけになるのです。

ベストな応援追い求め 審査してメンバー決め

――応援の人数制限はあるの?

ありません。選手権では、まず初戦にユニホームを着て応援するメンバーを決めます。選手権は試合が勝ち続ける限り、練習内で随時行います。基準をクリアすれば、全員で応援することが可能です。その状態がベストな状態だと考えて、選手権を行っています。

――応援選手権はつらいこともあると聞いたけれど…。

そうですね。野球応援選手権は、1年生、2年生それぞれが悩みを抱えるイベントです。

入部して数カ月の1年生にとって、20曲以上の振り、メロディー、歌詞を覚えることは最初の試練です。自主練習をしてできているつもりでも、選手権で頭が真っ白になってしまうこともあります。私は、パワーを持続するために腹式呼吸の練習をやりました。表情は、選手権が進むにつれて、疲れが出て、無表情になってしまうこともあります。

――高坂さん自身はどうだったの?

私は1年生のとき、選手権で審査に通らず、制服でメガホンを持って一般生徒と応援をしました。応援メンバーとの差を感じ、とても焦りました。そして、私を応援してくれている家族や友達に、申し訳ない思いでいっぱいでした。

2年生になると、1年生のときよりたくさん悩みました。応援は相手に思いが伝わらなくては意味がありません。1年生が振りを覚えきれてない部分や、集中がきれてしまう部分などを指摘し、直すのを手伝ったり、逆に応援する思いが全てから伝わる子にはより良くなるアドバイスをしたりして、1年生が成長するためのサポートを全力で行います。選手権のために一生懸命練習しているのももちろん知っています。だからこそ選出する時にとても悩みます。私は選手権の時期に悩み、家までの帰り道に泣きながら帰ったこともありました。

つらい経験乗り越えて

――野球応援選手権で得られたものは?

つらい思いをする分、得られるものはとても大きかったです。1年生は心身ともに部活にあった形になることができます。身体面では、水分休憩も含めて4時間くらい踊れる体力がつきます。そのためソングリーディング部が夏の試合で倒れることはほとんどありません。精神面では、チアダンスで重要とされる、チアスピリット、ポジティブスピリット、ボランティアスピリットを実感することができます。そのおかげで、メガホン応援の時も、ユニホーム応援の時もそのスピリットを生かすことができました。

2年生は部活を取り仕切る最上学年としての自覚、これからの部活の指針、2年生の中の絆が生まれます。1年生の時とは違って、一人一人に大きな責任があるため全員が協力し、仲間として一ひと回りもふた回りも大きくなります。

私たちの部活は3年生が4月末に仮引退をするため、2年生になった瞬間から部活をまとめなくてはなりません。選手権を行うことで、自分たちのカラーや先輩としての自覚が生まれます。

「人の心を動かせた」

――野球部の部員とのエピソードを。

いつも野球部が練習している隣で限界まで練習を行いながらもみんなで支えあい、ずっと笑顔を絶やしませんでした。すると野球部の友人が「ソング(リーディング部)が頑張っているから僕らももっと頑張れる」と言ってくれました。私たちが全力を尽くしたことが人の心を動かせたと実感しました。

――今後の展望は?

全校生徒2000人、そして応援してくれる隼人ファンと、思いを共有したいと思っています。だからこそ、野球応援選手権を含め、笑顔で全身全霊を尽くし続けたいと思っています。

気持ちよくプレーしてほしい

部長の大和田未萌さん(3年)に今年の野球応援に懸ける意気込みを聞きました。

 今年は例年以上に周りと創り上げる応援にしたいと思っています。そのために応援することはもちろん会場内でのあいさつ、ゴミ拾いなど応援以外の部分でも選手が気持ちよくプレーできる環境を創り上げたいです。

 選手が全力尽くして試合しているので、私たちはそれ以上に全力を尽くして応援をします。振りを間違えないことや笑顔の練習は、今まで選手権や日々の練習で鍛えてきた基礎力なので、そこから私たちが試合の時に、選手にまっすぐ気持ちを届けられるかが要だと思います。2回目の甲子園出場を目指している硬式野球部、そして全国出場を目指している軟式野球部の部員たちを、応援という形で支えたいです。

大和田さん(左)と髙坂さん