八王子東高校(東京)には、今年、活動20周年を迎えた「有志男声合唱団ますらを」という有志団体が存在する。団員たちは、有名なアニメソングやCM曲を男声合唱に編曲し、アカペラで歌う。今年の同校文化祭「しらかし祭」(9月7、8日開催)でも、彼らの公演は名物となっていた。(中田宗孝)
ダース・ベイダーの曲で登場
文化祭の公演会場の一つとなる剣道場は、開演前から立ち見が出るほどの満員御礼だ。場内の誰もが、黒い法被姿のお祭り男たち「有志男声合唱団ますらを」の登場を待ちわびる。
「1、2、3、4!」の合図で、会場外から「ベイダー行進」を口ずさみながら、団員たちが次々とステージに登壇する。同曲は、映画「STAR WARS」の悪役ダース・ベイダーのテーマ曲を男声合唱に編曲した、彼らの入退場のお約束曲である。場内の空気を早くも掌握すると、勢いそのまま1曲目の「ドラえもんのうた」をアカペラで歌いあげ、約1時間にわたる“ますらを劇場”が開幕した。
アニソンやCMソングを歌いこなす
ますらをは、陸上部、卓球部、水泳部、吹奏楽部、コーラス部……さまざまな部活を掛け持つ男子生徒たちで構成する有志の団体だ。そのため、合唱練習は部活のない昼休みの時間に週5日行う。50人を越える団員をまとめる団長の青木大地君(3年)は、「僕は吹奏楽部と掛け持ち。高1の文化祭の時、楽しそうに歌う先輩団員たちの姿を見て入団を決めました」と話す。
彼らが合唱するのは、「宇宙戦艦ヤマト」「DANZEN!ふたりはプリキュア」などの懐かしのアニメソングや、「楽天ポイントパンダフル!!」「安心戦隊ALSOK」といった聞き覚えのあるCMソング。他校の合唱部と一線を画すレパートリーが特徴だ。そして、活動の目的に「世界征服」を大真面目に掲げる、茶目っ気たっぷりの団体でもある。
大ジャンプに絶叫、体を張ってパフォーマンス
「歌う自分たちも楽しみつつ、お客さんを喜ばせるエンターテイナーであることも忘れません」。そう青木君が話すように、団員全員がオーバーリアクションの振り付けを交えて歌う曲や、曲中に大ジャンプしたり、絶叫の合いの手を入れたりと、体を張ったパフォーマンスを加える。
ますらをの定番曲「ラジオ体操第一」では、団内オーディションで選ばれた団員たちが客前でキレ味抜群のラジオ体操を魅せる。同曲を歌うテンポが徐々に上がるも、難なく対応して高速で体操を続ける団員の姿に、観客は拍手喝采だ。「パフォーマンスは全力かつ真面目にふざけます。自分を捨てきれず恥ずかしがると全然面白くないし、お客さんに伝わりません。本気でふざけるからこそ、自分たちのパフォーマンスに磨きがかかるんです」(青木君)
曲の合間に寸劇、時事ネタ交え爆笑
文化祭公演では、曲と曲の間に、団員たちによる物語仕立ての寸劇を披露するのも醍醐味の一つ。結成20周年を迎えた今年は「時をかけるますらを~20年目の真実~」と題し、「初代ますらを」を狙う悪者の企てを阻止するべく、20代目の現役団員らが過去へとタイムスリップする物語を展開した。
6月頃から、団内きっての愉快な団員らによる台本作成委員会が組織され、劇の内容を練るという。「ストーリーに旬の時事ネタ(『元号発表』『働き方改革』など)を加えつつ、曲へと繋ぐ。内輪ノリのネタになりすぎないように注意しています。会議は爆笑の連続で、本題からそれまくりでした(笑)」(青木君)
劇中、現役団員扮する初代と20代目のますらを団員が時を越えて出会う。感動の名シーン……になるわけでもなく、お互いに難関大学への合格団員数を競ったり、制服の違いをプチ自慢したりと、全く埒があかない。ステージ上で繰り広げられるドタバタ劇に、場内からどっと笑いが起こる。てんやわんやの末、「八王子東高校校歌」を共に熱唱し、ますらを魂がついに邂逅した。
目標は「世界征服」
団員たちの活動をサポートするのは、女子生徒による有志マネジャーたち。曲間の劇で使用する小道具制作から公演の映像編集まで、裏方業務を彼女たちが担う。マネジャー長の高梨真衣さん(3年)が、ますらをの魅力を語る。「みんなの歌っている姿が本当に楽しそう! 『歌』と『ますらを』を心の底から愛しているのが伝わってきます。彼らの歌声と笑顔を糧に、私たちマネジャーは細かい作業でも頑張れるんです」
2日間の文化祭で4公演を行い、歌声で「しらかし祭の完全征服」を成し遂げた団員たち。ますらをの未来を団長の青木君に聞くと、「もちろん、『世界征服』です!」と、力強い声で教えてくれた。