東京の正則高校に通う「ミウ」こと髙見澤海羽さん(2年)は昨年、東京都の2つの軽音楽部大会でグランプリに輝いた。2年生での受賞は都大会でも稀なことだが、歌が飛び抜けて上手いわけでも、高校生離れしたギターテクニックがあるわけでもないという。聴く者の心をつかんで離さない、弾き語りの魅力に迫った。(文・写真 山川俊行)

髙見澤海羽さん(2年)

東京タワーの目と鼻の先にある私立正則高校。刺すような寒さが身に染みる2月某日、私が訪れたのは創部12年ながら都内屈指の実力を誇る同校の軽音楽部だ。お目当ては、昨年の東京都高校軽音楽コンテストと東京都高校文化祭軽音楽部門大会中央大会の2大会でグランプリを受賞した、「ミウ」こと髙見澤さん。

軽音楽部の大会では珍しい弾き語りスタイルを採り、作詞作曲も自身で行う。そしてソロでの出場としては、都大会史上初となる高校2年生でグランプリを受賞したという注目の高校生だ。

顧問の木村均先生に案内され、取材場所となる教室へと向かう。引き戸を開けて中に入ると、ミウさんが「こんにちは」とはにかみながらお出迎え。取材は初めてとあって、少々緊張気味のようだ。

一見すると、どこにでもいる普通の高校生だ。こんな小さな体から人々を魅了する歌声が出るものなのか……、そんな疑問がわいてくるが、話を聞いてみないことにはわからない。まずは、ミウさんと軽音楽との出会いから聞いてみた。

バンドとの衝撃の出会い

「正則高校は、軽音楽部に入りたくて受験したんです。ずっとバンドをやりたくて」。開口一番、入学の理由をそう語るミウさん。バンド音楽との出会いは、小学校5年生の頃だったという。「当時、back numberやRADWIMPSを聴くようになって、バンドってかっこいいなって思うようになりました。それまでクラシックしか聞いてこなかったので、体に電気が走るような衝撃でした」

5歳からピアノを習っていた彼女にとって、自分の好きな音楽で進路を選ぶのは自然な流れだった。そして2017年4月、ミウさんは正則高校の門を叩く。念願だったバンドを結成し作曲や練習に励んでいたが、すぐに問題に直面した。

ギターを抱えると自然とリラックスした表情に

弾き語りスタイルは突然に

「バンド活動をしてみたものの、いろいろあって高1の終わりに解散しちゃったんです。自分が良いと思った曲がみんなにとっては微妙だったり、それでできた曲もあまり思い入れがなかったり、歌っていても全然楽しくありませんでした。軽音楽部に入って一番辛い時期を過ごしました」

はかなくついえた夢。しかし、音楽への情熱は消えなかった。

「音楽は辞めたくなかったんで、一人でもできることってなんだろうって思ったときに、弾き語りに行き着きました。やっぱりひとりのほうが自分らしさを出せるというか、自分がやりたい音楽ができる。たぶん自己中なところがあるのかもしれないですけど、自由にやれるのが楽しくて仕方なかったですね」

バンド時代とは打って変わって、音楽にのめりこむ日々が続いた。2018年8月の東京都高校軽音楽コンテストの前は、寝ても覚めても音楽のことを考えていたそうだ。「家でも電車の中でも授業中でも、どうアレンジしようとか、どうやったら他のバンドに勝てるだろうとか、ひたすら考えていました。弾き語りはバンドよりも音圧が低いから、どうアピールしたらいいか、すごく悩みました」

たったひとりの孤独な戦いだったが、努力の甲斐あって見事グランプリを獲得する。3年生の先輩たちを差し置いての栄誉ということもあり、受賞の瞬間は頭が真っ白になった。

弾き語りを始めてたった半年。才能が世に認められた瞬間だった。

勝って当然 自分との闘い

その3カ月後の11月に開かれた東京都高校文化祭軽音楽部門大会中央大会でもグランプリに輝いたミウさん。しかしその裏では、勝って当たり前というプレッシャーとの闘いに疲れ切っていた。

「夏の大会でグランプリを獲ったことで、他校にも名前が知れ渡ってしまって、『ミウがいるから絶対勝たなきゃ』『絶対負けないから』とか言われていて。3年生がいない大会でグランプリを獲れなかったら、自分の中でも許せなくて。それが怖くて、プレッシャーでした」

自身の曲作りのスタイルも、その苦しみに輪をかけた。

「学校とか人間関係とかで嫌なことがあると、あんまりいい曲ができないんです。暗い曲だったり、思いつかないことが多くて。そういうときは涙が出ます。今ここで停滞しちゃったら他の学校のバンドはもっと上に行っちゃうとか、自分も突っ走らなきゃいけないのにとか、焦りが先行してしまって」

バンドフェスティバルで披露した「ノンフィクション」は、そんな苦しみから解放された瞬間に浮かんだ曲だった。

「ノンフィクション」は完成した瞬間、大会で演奏しよう思った自信作だ

内面を歌にする

「この曲は大会予選の一カ月前にできた曲でした。中学時代の恋愛をテーマにした曲なんですが、あまりいい思い出ではなくて、だから絶対に歌にしたくないと思っていたんです。でも、曲作りで悩んでいたときに友達に『じゃあ作ってみたら?』と勧められて。それで、なんとなく作ってみようと思ったら、めちゃくちゃいい曲ができました」

 曲を通して過去の辛い経験と向き合ったとき、渾身の一作が生まれた。顧問の木村先生は、ミウさんの楽曲の特徴を分析する。

「彼女は負の部分をちゃんと見ているんですよ。そこに対して日々格闘している。自分がのたうちまわっている姿をそのまま音楽にすることで、自分を成長させようとしているという意思を感じます」

高校の軽音楽部に携わって10数年。これまで4~5千組のバンドの演奏を聴いてきた木村先生の目にも、ミウさんの表現力は際立って見える。「歌やギターがもっとうまい子がいましたが、ミウの場合は自分を表現したいというエネルギー、情熱は桁違いに大きいですね」

 弱さも含めて自分を包み隠さず表現し、聴衆の共感を誘う。その証拠に、ミウさんのライブでは女子のみならず男子生徒すら涙を浮かべて聴き入ってしまうのだという。性別の垣根を越えて、聴く者の心に訴えかける表現力こそが、ミウさんの最大の魅力なのだ。

心の声が響き渡った

本人の話をひと通り聞いて、高校2年生でグランプリを獲得した理由にも得心がいった。しかし、百聞は一見に如かず。取材後、「演奏をお願いしてもいいですか?」と訊ねてみると、「ちょっと準備しますね!」と、待ってましたとばかりにニッコリ顔。軽音楽部の練習場所として使っている教室へと続く廊下を、ミウさんのあとをついていく。

ドラムやアンプ、ギターが雑然と置かれた教室の中央には、マイクスタンドが立っていた。ミウさんはすたすたとマイクに歩み寄り、深々とこうべを垂れる。ミウさんのスイッチが入った。ギターを弾きながら、噛みしめるように言葉を紡ぎ出した。

 

「ノンフィクション」
作詞・作曲  ミウ

 

待ち合わせの時間には必ず遅れてくる
歩く速ささえも合わせてくれない
私が傷つく言葉を簡単に吐いて
私を見て笑う 君の悪いとこ

 

恋に対する嫌悪感で あなたを否定してしまう
「ごめん、ごめんねって」
いや、あなたは私を求めていなかった

 

どことなく冷たいあなたがさ

 

あなたの短所は私の中では長所に変換されてしまう
奥の奥の奥の奥から愛しい
私があなたの一番好きなとこは
紛れもなく私のことを好きじゃないところ

 

幸せの代償はきっと私には大きすぎる
卑屈な私にはさ  自信がなかったみたいだ

 

受け入れらんない  受け入れらんないよあなたの幸せが
思い出して虚しくなって泣く泣く
許してよ
傷んだ髪の枝毛までも愛しい
もう思い出か

 

喉の奥に突っかかるあなたへの言の葉は
喉の奥で押し殺してしまおう
あなたと共有した好きな音楽を
私が歌うよ  私が歌うから

 

あなたの短所は私の中では長所に変換されてしまう
奥の奥の奥の奥から愛しい
私があなたの一番好きなとこは
紛れもなく私のことを好きじゃないところ

 

凄惨な恋だった

「わたし、能天気なのかもしれない(笑)。悩むときはすごい悩みますけど、ある瞬間、吹っ切れるタイミングがあるんです。だから、時間に任せています。逆に音楽をやっている時間は嫌なことでも忘れる。音楽を辞めたら全部なくなる、音楽が唯一の救いです」