【あらすじ】 上リ坂(のぼリざか)高校新聞部の3年生・篠田ヒロは、自分の学校がここ数年で進学実績を伸ばしている秘密を探るため、先生たちへの取材を始めた。ノートの取り方のコツを聞くため、美術室に向かった。

板書を写すだけでは足りない

 

上リ坂高校の美術室に入ると、ボサボサな髪をした五歩先生 が、美術部員の提出したスケッチをチェックしているところだった。いや、よく見てみると、美術部員の授業ノートではないか。

――美術部員のノートの取り方をチェックしているのですか?

「せやで。部員の成績向上に貢献するのも顧問の役割やから な。あ、美術部入ったらノートの取り方教えたるって宣伝しと いてな」

――その秘伝のノートの取り方を取材させていただいてもよい でしょうか?

「ええで。その前に、そもそもテストの点を上げるために必要なのはなんやと思う?」

――問題集を解くことでしょうか?

「お、ようわかってんな。その通り、問題集を解いてはじめて成績が伸びる。っちゅうことは、問題集を解くときに役立つノート作りをせなあかんいうことや。そもそもノートに抜け漏れがあったらわからないことがあっても解決でけへん。授業は板書+先生の言ったことからできてるから、ノートも、板書に加えて先生が言ったことを細かく記入することやな。ノートを見て解決できないものは参考書やインターネットで調べて、ノートに加筆していくんや。重要な情報をノートに一元化していくっちゅうことや」

――それって、精緻化みたいですね。

「お、よう知ってんな。自分の知っている知識に新しい知識を紐(ひも)付けること(精緻化)や、箇条書きなどを利用して整理する(体制化)ことで、ノートの内容が記憶に残りやすくなるんやで」

――ノートの取り方に関連して、授業の予習復習はどうしたらいいでしょうか?

「予習は参考書を軽く読んで、授業の全体概要を掴つかんでおくだけで十分や。英語や古文のように事前に本文を訳してくるよう言われる教科は、出てくる単語だけを調べていったらええ。なぜなら、家での勉強時間はできるだけ復習に使うべきやから。復習とは、授業ノートを読み返したりまとめなおしたりすることやない。問題集を解くことや」

――塾に通っている人は、どのように時間を使ったいいですか?

「講義型の授業を聴くだけでは点数は伸びん。レベルが合わない授業についていけなかったり、予習復習だけで時間が過ぎる危険性があるんや。塾に通うことが却(かえ)ってマイナスに働いている状態やな。塾に通うなら目的を持つべきや。必要な授業だけ目的を持って取るとか、自習室だけを利用するとかな」

絵画鑑賞しただけじゃ絵がうまくならないのと同じや、と五歩先生は言った。外はすっかり暗くなっている。僕は先生にお礼を言い、急いで家路についた。(続く)

ふなと・よしあき  東京大学理学部化学科卒業。学習参考書などを多数執筆。著書に「高校一冊目の参考書」(KADOKAWA)、「高校の勉強のトリセツ」(学研プラス)など。