【あらすじ】上リ坂高校新聞部の3年生・篠田ヒロは、自分の学校がここ数年で進学実績を伸ばしている秘密を探るため、先生たちへの取材を始めた。

「やればできる」と思うのが大事

上リ坂高校の総合グラウンドに、ホイッスル音が軽快に響く。陸上部を率いる大谷先生は、赴任先の陸上部を必ずインターハイに出場させることで有名な名将だ。インタビューをお願いすると、陸上部員に「終わるまでスクワットな!」と大声で指示を出した。陸上部員の強い視線を感じる中、僕はインタビューを開始することとなった。

 

「勉強する上で大事なこと? それは、〝やればできる〟という学習観が持てるようになることだね。勉強に対して持っている考えのことを学習観というのだけど、もし勉強することをつらいこと、どうせやってもできるようにならないことと考えていたら、そもそも勉強しなかったりすぐに諦めたりしてしまう。一方、やればできると考えていると、できるようになるまで食らいつくようになるね。勉強が得意な子はだいたい、やればできるという学習観を持っている」

――では、やればできるという学習観に変えるにはどうしたらいいのでしょうか?
「正しい勉強法を身につけて、実際に成績を伸ばすしかないな。ただし、学年1位になる必要はないんだ。正しい方法で勉強して、やった分だけ伸びたという成功体験が得られれば十分だよ。そうすれば、少しずつ勉強時間を延ばしたり、他の科目もやってみようと思うようになる。同じことが陸上でも言える」

そう言って大谷先生は、陸上部員を指さした。
「スクワットを繰り返すと、太ももの前の筋肉が鍛えられ、その結果スタートダッシュが速くなる。スタートダッシュが速くなったことが実感できたら、他のトレーニングもやってみようと思うよね。なぜなら、正しいトレーニングをすれば速くなるという思考回路に変わっているからだ。それと同じだね」

――なるほど……! では、勉強における正しいトレーニング方法とは、何でしょうか?
「それは、いろんな先生にインタビューして聞いてみるのがいいかな。少なくとも、正しい勉強方法はあるということは知っておくべきだね。そうそう、教育心理学や認知科学という学問分野では、記憶のメカニズムや効率的な勉強方法が科学的に研究されているんだよ」

――え、そうなんですか……
「確か保健室の先生が詳しかったよ。ぜひ、聞いてみるといい」

気がつくと、陸上部員の息がこちらに聞こえてくるほど大きくなっていた。先生と陸上部員にお礼を言うと、僕は逃げるようにしてその場を後にしたのだった。 (続く)

ふなと・よしあき  東京大学理学部化学科卒業。学習参考書などを多数執筆。著書に「高校一冊目の参考書」(KADOKAWA)、「高校の勉強のトリセツ」(学研プラス)など。