常に試合のような張り詰めた緊張感の中で、1本1本集中して弓を引く

8月の全国高校総体(インターハイ)弓道男子団体で、群馬県勢初となる3位入賞を果たした市前橋弓道部。全部員が高校から本格的に競技を始めるという。そんな中で常に県内有数の実力を維持してきたのは、射込み(的に矢を射る練習)で身に付けた感覚を大事にしながら、自分自身を客観的に見ることを意識しているからだ。(文・写真 小野哲史)

射込みはまず質

28メートル離れた直径36センチの的を射抜くために、「弓を引くこと」を練習の絶対的な柱にしている。神道友樹(3年)は「(的中率が上がって)自分の感覚で『これだ』という射形(弓を引く姿勢)が見つかったら、後はそれを繰り返す。射込みはまず質、そして量だと思います」と話す。

ただ、「立ち」と呼ばれる実戦的な稽古の前には、巻いたわらを的に見立てて至近距離から射ったり、鏡でフォームを確認したりする。有馬遼河主将(2年)は「準備運動のようなもので、道場で的前に立つときに意識することを確かめます。鏡の前に立つのは、実際の動きが自分の感覚と違うこともあるので、目で見ることが重要だからです」と説明する。

弓を引くときに重要なのは、体の縦軸と横軸の安定性。頭から脚までの縦方向の軸を起点に、足から生まれた力によって腕や手が動くのが理想だ。それを身に付けるためには、自分の感覚を大切にしつつ、同時に自身を客観視できる目も持たなければいけない。

スマホで録画  練習に工夫

新入部員はゴムを使った型どり(フォーム作り)から行う。川口葉月(3年)は入部から約2カ月後に初めて矢を射ったが、的にまったく当たらなかったという。「射形はすぐに覚えたけれど、『形だけ』でした。課題が出たら、すでにできている部分は崩さないように修正しなければいけないのが難しい点です」

他の人の射形を見て指摘し合ったり、スマートフォンで録画した映像を見返したりするなど、部員はそれぞれ工夫しながら稽古に励み、やがて的に当たる確率が高くなっていく。こうした練習に加え、有馬が「自分たちが中心となって部を引っ張らないといけない」と語る、代々受け継がれてきた自覚が部の強さを支えている。

平日の練習の流れ(6限で授業終了の日の場合)

16:00
全体練習
・巻きわら(各自で課題修正)
・20 射記録(正規練習)
※班別練習なども行う
18:50
自主練習
・各自、的前で射込み
(基礎の修正)
20:00
下校

休日の練習の流れ(土日など)

8:15
全体練習
・巻きわら
・大会想定のチーム練習
昼食
12:30
自主練習(基礎の見直し)
15:30
道具調整など

※終日、県外への練習試合遠征の日もあり

礼儀を細かく指導  

 動作の意味を理解し、反復練習することによって安定性が増します。そのため、技術的には基礎を磨くことを徹底させています。もちろん試合で勝ちたいですし、良い成績を目指して取り組んでいますが、勝ち負けはおまけ。勝てば何をしてもいいかといえば、それは違います。

 部活動を授業や学校生活で学んでいることを生かす場にし、みんなに応援してもらえるチーム、そして世の中に出て恥ずかしくない人間になってほしい。そんな思いから日頃、礼儀を細かく指導します。道場に草花を置いたのも、協力し合って世話をすることで、生徒が学年に関係なく、密なコミュニケーションが取れると考えたからです。
 

山崎慎一郎監督

立ちの前に射形を確認

 

鏡で自分の射形を見ながら至近距離の巻きわらに向かって矢を射る。巻きわらは道場付近に多く設置されている

 部員同士で指摘

 

他の人に見てもらうことで正しい射形を見つけられるケースも少なくない。経験豊富な先輩が後輩を指導することが多い

 礼節を重んじる

 

「日常の挨拶や礼儀をしっかり行うことが弓道につながる」という山崎監督の考えは部員にも徹底されている。高い意識が選手、そして人として成長させる

 

 
【TEAM DATA】
1993年、同好会から発足。部員36人(3年生17人、2年生13人、1年生6人)。関東大会団体戦では女子が2014年に、男子が15年に優勝。インターハイ団体の最高は、女子が14年7位、男子が17年3位。部のスローガンは「あせらない・いそがない・あきらめない」。