「コンクールで勝つことを目的にするのではなくて、演じることの楽しさや客席と一体となって場を創り上げる感動を知ってほしい。後輩にそう言いたいと思えたのは負けたからです。悔しかったけど」。部長の須藤瑞己君(3年)は晴れ晴れとした表情で言った。

一昨年、全国高校総合文化祭の演劇部門で文部科学大臣賞を受賞し、昨年も連続出場を果たした前橋南高校演劇部。本年度、前評判は高かったものの、残念ながら全国大会出場はかなわなかった。

副部長の井上輔君(3年)は主役を務めた。「この2年間とは違う、ゼロから創った新しい芝居だったのが伝わらず、『今までの勢いそのままですね』と審査員に言われたことが結果以上に残念だった」と振り返る。

二人とも中学時代は運動部だった。演劇にはスポーツのような、分かりやすい勝ち負けがない。審査員の感性で評価が決まる。「それは理不尽だけど、だからこそ、やりがいを感じる」と口をそろえ、将来は演劇の道に進みたいという。

原澤毅一先生が顧問になった5年前は、たった一人の部員しかいなかった。今は2 9 人。「生徒たちの放課後が楽しくなればいい、という軽い気持ちで始めたことが賞につながったのでしょう。原点に戻りつつ、これからも芸術性の強い場を経験させたいと思っています」

負けて知る真理や本質もある。演劇の感動とは何なのか。悔しい思いを創造の糧にして、前南演劇部は新しい一歩を踏み出そうとしている。 (文・写真 田家伊都子)

学校紹介

1975年創立。平方孝校長。生徒数758人。校訓は「独立自尊・進取果敢・下学上達」。