宮崎南高校(宮崎)演劇部は、第38回全国高校総合文化祭(清流の国ぎふ総文2024)演劇部門に初出場して、全国ベスト4にあたる文化庁長官賞を受賞した。役作りでの苦労や演技力を磨いた練習法、作品制作の舞台裏を部員たちに聞いた。(文・中田宗孝、写真は優秀校東京公演で撮影=主催者提供)

補講中の教室が舞台

教室を模した舞台セットの中では、女子生徒たちがおしゃべりに花を咲かせる。彼女らは演劇部所属の仲良し3人組。居残りで補講を受けるハメになったのは、さして気にしてない様子だ。だが、補講担当の教師が眠くなる授業で知られ、「子守唄のナガノ」と呼ばれる数学のナガノ先生だと分かり……。

「学校の片隅で、数式を叫ぶ」の1シーン。物語はコメディタッチで展開。ナガノ先生の生真面目ゆえの突飛な行動に場内が大いに沸いた

上演作「学校の片隅で、数式を叫ぶ」(作・河原美那子と宮崎南高校演劇部)は、数日間の補講で育まれる先生と生徒の心の交流を描いた作品だ。

先生を観察し役作り

4人の登場人物の中でも、特にナガノ先生の挙動に観客の視線が集まった。今にも消え入りそうな声で、生徒に顔を向けず授業を進めていく。劇中では、過去のトラウマから教師として自信喪失していたことが明かされる。

「訳アリ」同士の教師と生徒たちのハートフルな交流を描いた

生徒役の一人を演じた飛松優花さん(2年)が「ナガノの90度」と形容する、常に猫背姿勢のインパクトも強烈だ。ナガノ先生役の永野玄登(げんと)さん(2年)は、学校の先生を観察して役作りに生かしたという。「できるだけ本物に近づけるように。先生たちの歩き方や授業中の視線の向け方を参考にしたんです」

観客の笑いで芝居のテンポがアップ

3人の女子生徒役は、仲の良い演劇部員の設定。宮崎弁での軽妙な女子トークが幾度も観客の笑いを誘う。公演ごと、その大きな笑いが役者の力となった。「直前のリハはダメダメ。だけど本番では、お客さんの笑いの力で芝居のテンポが良くなるし、私たちのギアもあがる」(飛松さん)

物語中盤では先生と生徒の立場が逆転する。女子生徒たちは、演劇部の「発声」「ダンス」「先生役を演じる」を教えることでナガノ先生の自信を呼び起こそうとするのだ。生徒の助言を素直に聞き入れ、真剣に実践するナガノ先生の姿に観客は胸を熱くする。気がつけば彼の背筋はピンと伸び、物語は大団円へと向かう。

キャラの背景を想像し停滞期脱出

昨年7月から今作の稽古を重ねる中で、役者たちが直面した停滞期。同じせりふや動きを何度も繰り返すゆえのマンネリ化だ。その対策として永野さんは「脚本に書かれていないキャラの背景を考えました」と話す。「ナガノ先生や生徒は補講前に何をしていたんだろう、と。今日、ナガノ先生は何を食べたのかとか、職員室ではどんなことをしていたかと自分なりに想像してみる」

キャラクターの深掘りが芝居に好影響を与える。「すると、新鮮な気持ちで役になれるんです。役のいろいろな設定を考えるのも楽しくなって、演技に飽きがこない」

役を交換して稽古し演技磨く

3人の女子生徒役は、演じる本人と近しいキャラクターのため「ずっと同じ役を演じていると、自分の演技が正しいのか迷うときがありました」(飛松さん)。

副部長の永野さん(左)と飛松さん。拍手喝采を浴びた劇中ダンスの振り付けでポーズ(中田宗孝撮影)

そこで、役を交換する手法を試みた。「他の部員が演じる自分の役を客観的に見ると、私とは異なる演技で役柄にアプローチしていたんです。『こんな表現方法もあるのか』と互いに気づけた。私自身、別の役を演じて自分の役に生かせる新たな感覚もつかめました」

「人の弱い部分を理解できる人になりたい」

先生と生徒の心温まる物語は、彼らを演じた部員の内面の成長も促した。永野さんは、この作品と出会い、「人の優しさを知りました」とほほ笑む。「以前は、一人悩みを抱えて『自分だけがつらい』なんて悲観的だった」と明かす。「人の弱い部分を理解できる人になりたい。この作品を通じてそう思いました。僕は誰に対しても優しくありたいです」

宮崎南高校 演劇部

1978年創部。部員9人(2年生5人、1年生4人)。機械室で週5日活動。部訓「楽しいことをやりましょう」。主な大会受賞歴は、「第64回九州高等学校演劇研究会」にて優秀賞1席を受賞し、「第17回春季全国高等学校演劇研究大会(通称:春フェス)」に出場。部のOBに俳優の堺雅人さんがいる。