全国高校総合文化祭出場10回の和太鼓部が、今年1月の大 阪予選で2位に終わり、今夏の全国大会への出場を逃した。だ が、敗れたことによって「まず自分たちが楽しむ」という原点 を思い出し、新たな挑戦が始まった。 (文・写真 白井邦彦)

全国大会の常連だ。しかし、「伝統の1曲」を究めるのではなく、毎年違う曲に挑戦するという方針は全国的にも珍しい。昨年度は元気でハツラツとした演奏を抑え、和太鼓の伝統を意識した荘厳な曲を演奏してきた。全国大会で勝つために。だが、今年1月の大阪予選で2位となり、8月の富山大会の出場を逃した。長年、部を率いる山下勉先生(62)は「大阪と全国では求められるものが違うようです」と静かに言う。部長の阪本夏実さん(3年)は「(負けたときは)退部したいと泣きじゃくる子もいた。私自身、何を目標に引っ張っていけばいいのか分からなくなった」と振り返る。

その屈辱から約3カ月後の4月。山下先生の提案で、被災地の年配の方に励ましの手紙を送ることにした。昨年7月に被災地を訪ね、今年3月11日には大阪・鶴見商業高校軽音楽部などと一緒にチャリティーコンサートで演奏するなど、震災支援活動に積極的に取り組んできた。「本当は現地で演奏したい。でも、和太鼓は音も大きく、気持ち的に受け止められない被災者もいるはず。だから、手紙に」と山下先生。

すぐに被災地から返事が届いた。感謝の言葉の中で、大西美里さん(2年)への手紙には、感謝とともに励ましのメッセージもつづられていた。

大西さんは、大阪予選を前に最愛の父を亡くしていた。「父も楽しみにしていた大阪予選で負けて本当につらかった。そんなときに返事が届いた。返事を頂くだけでうれしいのに、私を励ます言葉も書かれていて。本当にうれしかった」と話す。

和太鼓部は、昔から近隣の介護施設で演奏するなど地域交流を大切にしてきた。「代替わり直後の演奏がグダグタのときでも、温かい拍手で応援してくれる」と阪本さん。地域を支え、また支えられてきた。大阪予選はその関係をあらためて感じる機会になった。

今年の目標は「もう一度、自分たちも楽しんで、お客さんと一体になれる演奏会をすること」と坂本さん。負けて学ぶことも多い。