全体練習では、パートごとに音を聴き合う。音だけでなく、心を感じ合い、気持ちを合わせる場だ

総勢96人が在籍する千葉・幕張総合高校合唱団は、1996年の学校創立以来、全日本合唱コンクール全国大会で5度金賞に輝いている強豪だ。部活を訪ねると、独自の練習方法、部員たちの団結力から、感動を呼ぶ歌声を生む理由が見えた―。
(文・久保陽子、写真・平野敬久)

全員が全パートを練習

クリスマスが近づいた12月のある日、冬休みの音楽室は翌日にコンサートを控えた部員たちの熱気であふれていた。
 「しっかりと、音が下がらないよう体で支えて!」。秋でステージを離れた3年生を除く1・2年生69人が真剣な表情で、顧問の山宮(さんぐう)篤子先生のアドバイスに耳を傾けている。
 
 輝かしい成績を誇るが、入部当初はほとんどの部員が譜面を読む基礎の部分から練習をスタートする。テノールパートリーダーの沼春樹君(2年)は「1年の時から、音程を合わせる音叉(おんさ)という器具を持ち、正しい音を覚えます。楽譜はドレミではなく、クラシックで最も多く使われているドイツ語で読みます」と話す。
 
 さらに独特の練習方法がある。混声合唱は通常、ソプラノ、アルト、テノール、バスの4パートで構成される。部では譜面を読む練習の段階で、全員が全パートを歌えるようにする。互いの音を完璧に把握することが、安定したハーモニーにつながっているのだ。

山宮先生が指導する全体練習では、パート練習とはまた違った緊張感が。歌い方など多くの刺激を受ける瞬間

団結力は抜群

「部の団結力はとても強い」(副部長の中桐優実さん・2年)のも特徴だ。中でも男子は「お泊まり会」をするほど絆が固い。
 合唱団に入って「人の気持ちを考えられるようになった」と、パートリーダーは口をそろえる。個々の意見の違いでぶつかり合うこともあるというが、アルトのリーダー須賀未帆さん(2年)は「中学の時に比べ、余裕を持って相手を褒めたり受け止めたりできるようになりました」と語る。
 
 合唱は、音と心が重なり合った時、感動が生まれる。幕張総合高校合唱団は音楽を通して互いを理解し合う力を育みつつ、その成長の姿を歌声に乗せ、今日も舞台で披露する。
 
顧問 山宮篤子先生 認め合う心を育てる
 
 技術は厳しく指導しますが、心の面をより重視しています。生徒たちは、本当に素直です。素直さは人の成長に最も大切。その心を自然に合唱で表現できるように心掛けています。
 
 生徒たちが合唱の活動を通して、ぶつかり合いながらも互いを尊重することを学び、結果として心を一つに演奏することで、認め合えるようになる。そこで得られる経験は本当にかけがえのないものです。それは今後、全てにおいて生きると信じています。
 
部長 江尻宗孝君(2年) 笑顔で満足できる合唱を
 

 合唱の魅力は、みんなの声が合った時の達成感だと思います。勉強も音楽も頑張りながら来年度も全国1位になれればと思いますが、結果よりも目指したいのは、自分たちが笑顔で満足できる合唱です。
 
 自分たちにとって山宮先生の存在は、本当に大きいですね。あいさつの声だけで気持ちの変化を感じ取り、一人一人を見てくれていると感じます。音楽面はもちろん、大げさではなく自分たちの人生を変えてくれた先生です。

【部活データ】1996年創部。団員(部員)96人。団長を3年生が、部長を2年生が務める。全日本合唱コンクール全国大会で金賞を5度受賞。NHK全国学校音楽コンクールでは全国大会に8年連続出場し、金賞を3年連続受賞している。地域でのコンサートなどへの出演依頼が相次ぎ、校内外で広く歌声を披露している。