飛行実験に備えてドローンの調整を行う岩倉さん(写真提供・株式会社自律制御システム研究所)

コンピューターの自動制御で飛行する小型無人航空機「ドローン」に世界的な注目が集まっている。海外勢が先行する中、千葉大学発のベンチャー企業の株式会社自律制御システム研究所は、研究開発、製造、販売を行い、純国産ドローンで市場獲得を狙っている。同社でドローンを動かすためのプログラミング開発を担う岩倉大輔さんに話を聞いた。

ドローンは、空撮による計測、災害救助、農薬散布など多様な分野で活用が期待されており、米インターネット通販大手アマゾンが宅配への活用を検討したことなどから注目されている。現在は、大半が海外製だ。「われわれには他社がまねできない高度な技術がある。それは世界と戦う大きな武器になると思っています」と岩倉さんは語る。
 
 強みの一つは、機体の動きを正確に制御できることだ。同社は千葉大の野波健蔵特別教授の研究室から誕生したベンチャー。自律制御やロボットなどに関する研究を基に、システム開発から設計製作、実用化までを一貫して手掛けることで、空中における優れた安定性や飛行精度を実現している。
 
 もう一つの強みは、機体に搭載したレーザーで周囲の障害物を認識し自律飛行するドローンを開発していること。海外製の多くは全地球測位システム(GPS)に頼っているため、ビルの谷間や屋内などGPS電波を受信しにくい場所は飛行が難しい。一般的なドローンが入れない場所に入っていけるのが同社製の長所。この技術を生かして、福島第1原発内での自律飛行も行われたという。

人と違うことをやる

岩倉さんは学生時代、「コンピューターのプログラムでモノを動かしたい」と、野波教授の下で研究生活を送り、教授が会社を立ち上げる際に誘われて設立メンバーに加わった。会社にしたのは、大学の研究室という組織の制約を超えてビジネスとして展開するためだ。
 
 現在は、ドローンを空中でより安定させ、より速く飛行させることを目標に飛行制御プログラムの研究に取り組んでいる。一貫してこだわってきたのは「人と違うことをやる」こと。世界にオンリーワンのモノを送り出すためには「未来を予想し、まだ誰も気付いていない領域を見つけることが大切」と話す。

遭難者の救助を

岩倉さんによれば「今はドローン・ブーム」。エンターテインメント分野での活用を持ち掛けられることもあるが、同社が目指すのはあくまでも産業応用。作業員が近づくのが難しい地点の設備点検、災害時の被災状況の確認、GPSの電波が届かない橋やトンネルの点検などの用途をメーンターゲットにしているという。
 
 岩倉さんが実現したいと考えているのがドローンによる人命救助だ。「山で遭難した人の捜索を夜間に中断せざるをえないニュースを聞くたびに『赤外線カメラを搭載したドローンを飛ばせたら暗くても捜索に行けるのに』と歯がゆい思いをします。研究者の本分は世の中に貢献すること。そのために製品の質をさらに高めていきたいです」
 
(構成・平野さゆみ、写真・大橋哲也)

いわくら・だいすけ
1985年生まれ、富山県出身。「人より先に工学の専門知識を身に付け、一歩先を行こう」と富山工業高等専門学校(現富山高等専門学校)機械工学科に進学。卒業後、千葉大学工学部電子機械工学科3年次に編入学し野波研究室へ。博士号取得後、同大特任助教に。その間、自律制御システム研究所の設立が決まり入社。2014年1月から取締役。

高校生記者から 

岩倉さんへのインタビューは、高校生記者が担当した。

●印象深かったのは「人とは違うことをやりたかった」という言葉。「世界にあるモノだけを見ていては駄目で、10年後などを考えると、世界で新しいモノを創り出すことができる」という岩倉さんの言葉から、私も未来を「想像」し、「創造」したいと思った。
(前田黎)

企業データ株式会社自律制御システム研究所 千葉大学の野波健蔵特別教授の研究室で30年以上にわたり行われてきた先端的制御、自律制御、ロボット、メカトロニクスに関する研究の成果を生かして社会の発展に貢献するため、大学発ベンチャーとして2013年に設立。同大学内の施設「千葉大学知識集約型共同研究拠点」で、完全自律型電動マルチローターヘリコプター「ミニサーベイヤー(ドローン)」の研究開発と製造販売を中心に事業を展開している。同社のロゴは、ドローンのシルエットを模したもの。
 企業としての基盤が固まれば、学外に拠点を構える予定。社員24人。求める人材は「上昇志向のある人」「創造力を生かして仕事をしたい人」「粘り強く業務を成し遂げられる人」。