今福和志(大阪・四條畷学園3年)は3月、競泳の第100回日本選手権男子1500m自由形で、日本記録を11年ぶりに塗り替えた。競泳界を担う新星として、7月の世界選手権でも注目されている。何事も「自分はできる」と信じる、「スーパーポジティブ」な性格。競泳だけでなく、勉強も資格取得にも励んでいる。(文・田坂友暁、写真・中村博之)

日本選手権で3冠、11年ぶりの日本記録更新

会場がひとつになっていた。3月、日本選手権の最終日に行われた、男子1500m自由形の決勝。レース前の「日本記録を狙う」という言葉通り、序盤から日本記録を5秒近く上回るハイペースで泳ぎ続ける。

2025年の日本選手権で1500m自由形の日本新記録を樹立した今福和志

100mのターンごとに日本記録とのタイム差がコールされる度に、会場が大きく沸き起こる。大歓声に後押しされるようにして、最後まで泳ぎ切った今福は、14分50秒18の日本新記録を樹立して優勝を飾った。

「自分のことだけに集中できました。まるで隣に自分がいて、一緒に泳いでいるような感覚で最後まで泳げました」

400m、800m自由形でも自己ベストを大幅に更新して優勝。結果、高校3年生にして日本選手権3冠を達成。1500mと400mの2種目で、世界選手権の代表に選出された。

「辞めようとした」中2で転機

水泳は、ベビースイミングから始めたが、実はあまり好きではなかった。小学生が出場できるレースは50mや100mばかりで結果が出ず、苦しんでいたが、中学2年生の時に転機が訪れた。

「水泳を辞めようと思っていたけれど、スイミングのコーチや友達、両親も含めて『和志ならできるよ』とすごく励ましてくれました。僕は単純な性格なので、『じゃあもう少し頑張ってみようかな』って思えました」

そのとき、たまたま泳いだ1500mで良いタイムを出せて、「自分の適性は長距離だ」と初めて知った。

適性が分かってからの成長は早かった。中学3年生で迎えた全中では、1500mと400m自由形で優勝と、たった1年で全国の頂点に立った。その後、高校2年時にジュニアパンパシフィック水泳選手権の1500m自由形で優勝した。

物怖じしない、でも謙虚に

今年3月、日本選手権での優勝者インタビューでは、インタビュアーからマイクを借りて「(太田伸)コーチ! ありがとう!」と大声で呼びかけて会場を大いに沸かせた。物おじしない性格も魅力だ。

「恥ずかしいとあまり考えません。やりたいことは、とにかくやってみる。でも、調子に乗ったらダメ。謙虚でいるのは大切だ、と自分に言い聞かせています」

嫌いな教科は「なし」、FPの資格取得を目指して

根っからの「スーパーポジティブ」思考で、これが「嫌い」だと考えることも少ない。

「好きな教科は体育。嫌いな教科はないです。強いて言えば国語が苦手かな、というくらい。遠征に行くと英語も必要なので、頑張って勉強して、学校のスピーキングテストでは満点を取った時もあります」

将来の夢は、「お金持ち」。今はファイナンシャルプランナー3級の勉強もしている。資格を取りたいというよりも、お金に関する知識は持っておきたいという思いからだ。

「将来は公認会計士の資格も取ってみたい。取れなかったとしても、知識はつくので、チャレンジしてみたいですね」

どんなことでも、やればできると思っている。「すぐに結果が出なくても、長期的に頑張り続ければ報われ、結果が出る時もある。水泳を通して学びました」

友達との時間が息抜き「起業について話すことも」

水泳から離れられる、学校で過ごす時間がリフレッシュになっているという。合宿や遠征でなかなか行けないものの、学校の友達と話すのは何より大切な時間だ。

「遊びの予定や恋愛などたわいもない話や、今読んでいる本、その日のニュースについて話したり、起業について話をしたりすることもあります。将来についてもよく話します。将来を考えるのって、タダじゃないですか(笑)。いろんな人といろんな話をして、いろんなことを考えるのが楽しい。息抜きになっています」

調子が悪い時こそ「無心でやる」

一時はモチベーションの上がり下がりが大きく、結果を左右してしまっていた時期があった。そのときに考えついたのが、「調子が悪い時の波を小さくすること」だ。「悪い時こそ、毎日やると決めたことを無心でやる。すると、自然と波が小さくなっていって、泳ぎの調子も、メンタル面も安定するようになりました」

できないと考えるのはマイナスしかない。「できると思ってやってみて、できなかったとしてもそれは経験になって次につながる。皆さんも、ぜひ『できるんだ!』と自分を信じて、行動してほしいです」

世界でメダル「やっぱり狙いたい!」

初めて世界選手権に出場することに、緊張もしているが、厳しい練習に耐えてきたという自信もある。「世界という大舞台でベストを出して、メダルに挑戦したい。これだけ練習してきた。狙えるチャンスがあるのであれば、やっぱり狙いたい」

なぜ、これほど前向きな気持ちを持ち続けられるのだろうか。

「大きな目標達成のために、小さな目標をたくさん作って、クリアし、自信をつけるようにしています。大舞台では、やってきたことを出すだけ。あとはやるだけだ! と緊張も楽しむように心がけています」

いまふく・かずし 2007年5月21日、大阪府生まれ。枚方市立第三中卒。枚方スイミングスクール所属。0歳から水泳を始め、小学校1年生で選手コースへ。高校1年でインターハイ優勝。2年で日本選手権を初制覇。ジュニアの日本代表となり、高校記録を連発。