今年の夏も連日記録的な猛暑に見舞われた。夏の甲子園が午前・夕方の2部制になるなど、高校生の屋外活動での暑さ対策は喫緊の課題でもある。長崎北高校(長崎)は9月8日、午後4時から始まる「夕方からの体育祭」を初めて開催。熱中症ゼロの成果を上げた。(文・中田宗孝、写真・学校提供)

暑すぎて熱中症対策が追いつかず

「夕方の体育祭」を同校の教職員が検討したのは、昨年の体育祭がきっかけだ。年々暑さが増し、昨年は熱中症対策のため生徒席にテントを多めに使用したことで、泣く泣く保護者用のテントを用意できなかった。

「時間帯を見直すべきだと痛感しました。夕方に体育祭を行う高校が他県にあると知っていたので、うちでもできるんじゃないかなと思ったんです」(保健体育科・福島健二先生)

陸上競技場の観客席から保護者らに見守られゴール

日よけできる陸上競技場を会場に

今年で創立60周年を迎える記念も兼ねて、学校から車で5分の距離にある市営の陸上競技場での開催が決定した。「競技場のスタンドの下が日かげになっていて、生徒たちが日差しをしのげる場所がありました。スタンド席には日よけの屋根がかかっているので、見学する保護者の暑さも和らげられます」

体育祭当日、開会すぐの校長あいさつの様子。陸上競技場は屋根があるため、観客席は日陰に覆われる。

ナイター設備の整う校庭での開催も可能だった。だが、午後7時台で下校バスがなくなってしまう。生徒の夜間の安全確保の面からも、保護者による自家用車の送迎に頼らざるを得ない。「全校生徒は約700人。生徒数に対して、本校の駐車スペースが足りず、校庭では実施が難しいんです」

午後4時からの体育祭に好意的な教職員ばかりだったが、勤務時間の扱いに関する質問があがった。「校長に相談して、その日は勤務時間を後ろにずらす形で調整してもらいました」

3時間に短縮、来賓の挨拶は省略

5月、夕方開催を正式に発表すると、生徒や保護者たちからは「面白そう」「今までと違って特別感がある」「楽しみです」と、期待の高まる声が届いた。

開催時間は、準備や撤収作業を考慮し、昨年の4時間から1時間短縮して3時間にすると決めた。「そのため、プログラムを短くして、種目もあらためて練り直すことに。私たち教職員が何より大切にしたのは『子どもたち中心の体育祭にしよう』と。開会式は来賓祝辞を省いて校長の挨拶のみとしました」

夕方のため、暑さのピークは過ぎている。夕陽を浴びながら種目を笑顔で楽しむ生徒たち

保護者が観戦する競技場のスタンド席は、校庭に比べ生徒と距離がある。体育祭実行委員の生徒が中心となり、「遠くからでも何をしてるのか、ひと目で分かる点」を意識した種目を提案した。「対抗リレーや騎馬戦といった団体種目を増やしました。一方で100m徒競走は外しました。運動が苦手な生徒でも勝てる要素のある種目を優先的に選んだんです」(体育祭実行委員長・福島丈太郎さん・3年)

福島健二先生(右)と、体育委員を3年間務めた福島丈太郎さん。二人は親子だ

熱中症ゼロ、集中力途切れず盛り上がり

夕暮れどきの体育祭は成功を収めた。丈太郎さんによると「暑さは開幕時に感じたくらい」だったという。「毎年、プログラム終盤になると猛暑で生徒の集中力が切れ気味なるのですが、今回は暑くもなく時間も短くて。僕らはフィナーレまで盛り上がりました!」(丈太郎さん)

熱中症を訴えた生徒はゼロ。「救護テントにきたのは転んで怪我した生徒のみ。夕方スタートでも運営面に大きな支障はありませんでした」(福島先生)

閉会式の最後には、フジファブリックの名曲「若者のすべて」をBGMに60発の花火を打ち上げた。粋な演出で参加者全員を深い感動へと包む。「夕方からという話を聞いたときから、今年は良い体育祭になる予感をずっと抱いてました。花火もすごく良かった。ひと夏の忘れられない思い出です」(丈太郎さん)

解団式は夜の闇に包まれた中行われた

経費10倍、費用捻出に懸念も

大きな成果を得られた反面、懸案事項も残った。「大きな出し物の運搬費、貸し切り臨時バスの手配など、体育祭の予算は昨年よりも約10倍かかっています。今回は創立60周年イベントの一環として予算を捻出できたのですが……」(福島先生)

夕方開始になると、当然、行事の終了時刻は夜になる。「家に幼いお子さんがいる先生、夫婦共働きの先生もいる。教職員の事情も気を払わないといけない部分」だと話す。これらの課題を踏まえて、同校では来年度以降も「夕方からの体育祭」を模索していく予定だ。