鶴田芽生(愛知・名古屋女大高3年)は、国内最高峰の大会である全日本新体操選手権で、2023年に個人総合優勝し、全日本チャンピオンとして君臨している。インターハイでも優勝の大本命と目される選手だ。プレッシャーから逃げず、個人競技完全制覇を目指す。(文・椎名桂子、写真・榊原嘉徳)

小学校時代から注目され

6歳のとき、友だちに誘われて新体操を始めた。小学生の間は大会での目立った成績はなかったが、素質が認められ小学校6年生で日本体操協会の「育成プログラム」の対象選手に選ばれた。

中学1年生のときに、「日本体操協会の推薦選手」という形で出場した全日本ジュニア選手権がきっかけで注目を集めた。日本体操協会が全日本の大会に推薦で選手を出場させるのは、ケガや国際大会への出場などで予選に出られなかった選手の場合がほとんどで、実績がない選手を推薦したのは異例だ。

「中学生のころは動きが遅くて、難しいことを求められてもこなせませんでした」と振り返るように、演技の完成度は低く、成績はふるわなかった。だが、手足が長い恵まれたスタイルと高い柔軟性を兼ね備えた「未完の大器」として、その将来性は誰もが認めるところとなった。

長い手足が映えるダイナミックな演技が鶴田の持ち味(2024年の長野県新体操クラブカップ選手権・エキシビション演技)

「自信と怖さは半々」

しかし、注目され、期待されながらも、ジュニア時代は全国大会の表彰台にものれなかった。ノーミスで演技すれば高い得点が出せる力はついてきていたが、高難度の演技に挑戦しているためミスで自滅することが多かった。「協会推薦でジュニアの全国大会に出たので、『見られている』という意識もあったし、怖さも感じました」

過去2回出場したインターハイでは優勝を逃した。昨年の全日本新体操選手権が、全国大会では初めての優勝だった。優勝できたことで、「本番でもきちんと演技できれば勝てるんだという自信がついた」が、同時に今までとは違うプレッシャーを感じることもある。「自信と怖さと半々」。それが今の正直な気持ちだ。

それでも、インターハイは「自分の演技をしっかりやることができれば、優勝できると思っています」と語る。「『全日本チャンピオンなんだから』と見られていることを意識しすぎると、悪い方向に引っ張られてしまうこともあるので、気負いすぎないようにしたい」と気を引き締める。

終わったことは忘れる

心がけているのは、「終わったことは忘れること。切り替えを早くすること」だという。本来の性格は、「引きずるほう」というが、新体操に関しては意識して切り替えを早くし、ミスを引きずらない。そうでなければ、ハイリスク・ハイリターンの高難度演技に思い切りよく挑戦することはできない。

もうひとつ意識しているのは「感情的にならないこと」。自分の感情に流されると悪い波に飲み込まれて、ミスも連鎖してしまうので、「いつも練習で注意されていることなど、目の前のやるべきことだけを考えて演技するようにしています」。

練習のオフは2週間に1日、平日でも最低4時間は練習するハードな日々を送っている(学校提供)

練習でも「本番」を想定

現在は「オフは2週間に1回。平日でも4時間」と、インターハイに向けハードな練習を続けている。インターハイ本番で力を出し切るために、普段は本番を想定した練習をしている。「本番と練習で変わってしまうのが一番よくないので、練習でも本番のつもりでやる、そして本番のときは練習と同じ気持ちでやることが大事だと思っています」。今でも1日4時間に及ぶ練習の半分以上は、体つくりや基礎を磨くことに充てている。「技の練習もしますが、足の出し方といった基本中の基本の練習もしています」

演技の通し練習のときは、本番と同じように名前を呼ばれ返事をするところから始める、試合のときと同じ種目の順番で演技の通し練習をするなど、より本番を意識している。

技の多さとスピードが味

「新体操の一番の魅力は、できなかったことができるようになる喜びがあること。ノーミスで演技できることはなかなかないんですが、だからこそできたときの喜びは大きいです」という。奮わなかった時期も結果だけにとらわれず、地道な努力で一つずつレベルアップしていく「過程」に、新体操の楽しさを感じた。それが、鶴田の強みになった。

「今では、スピード感や演技中に組み込んでいる技の多さなどが自分の特長だと言えます。それを求めてきたことで、技ができるようになるまでに時間がかかったり、本番でミスが出たりしてしまっていたけれど、演技は縮こまらずに思い切りやりたい。それに、難しいことができたときは気持ちいいんです」

プレッシャーから逃げず

「周囲から期待される選手であること」は、本人にとってはつらい面も多い。そこから逃げ出したくなることも少なくないはずだ。それでも逃げずにここまできた。

インターハイでの目標はもちろん優勝だ。「個人でクラブとリボン両方とも1位になって完全制覇したいです」と明言する。

そして、将来の目標は「2026年のアジア競技大会や2028年の五輪に出られる選手になること」と、即答する気持ちの強さも身につけてきた。高校最後のインターハイ、「思い切りよく、気持ちのいい演技」で、初優勝を成し遂げられるよう、大いに期待したい。

つるた・めい

2006年11月1日、愛知県生まれ、名古屋女子大学中卒。名女大Jr新体操クラブ所属。6歳の頃に新体操を始める。2021年全日本ジュニア5位、23年インターハイ3位、全日本選手権優勝。159センチ、42キロ。