橋本治斗さん(2年)は、愛媛県の長浜高校に通うため、東京の実家を離れ、一人暮らしをしている。全国的にも珍しい「水族館部」で活動するためだ。「魚ラブ」な日々を紹介してもらった。(文・中田宗孝、写真・学校提供)

憧れ募り、一人暮らしを決意

橋本さんは幼いころから魚図鑑5冊を暗記するほど熟読した、魚好きな子どもだった。小5のとき、母親伝いに、海や川の生き物を飼育・研究する部活「長浜高校水族館部」の存在を知り、部員が運営する「長高水族館」を訪問。「図鑑に載っていない魚が飼育されていて、ガイドする部員の生き物たちへの豊富な知識にも驚かされました」

水族館部に入部するため県外入学を決断した橋本さん

中学生になっても、水族館部への憧れは消えなかった。長浜高校への進学を決めれば、親元を離れ一人暮らしをすることになる。県外への進学や一人暮らしの不安よりも、水族館部への募る思いが上回り、進学を決めた。

一人暮らしを始めて約半年で自分なりの生活リズムが確立でき、今では掃除や洗濯も板についた。「プライベートの時間を自分次第で決められるワクワクが今はあります。ただ、実家ではペットの犬と一緒に寝ていたので、就寝のとき少し寂しい」とはにかむ。夏は近くの海で釣ったカサゴを家で焼き魚にして食べるなど、瀬戸内海沿岸での暮らしを満喫している。

毎日水族館で過ごしてるみたい

水族館部では約150種2000点もの水の生き物を飼育している。今年4月には創部初となる長高水族館のリニューアルオープンを行ったばかりだ。「魚が大好きで同じ志を持つ部員から刺激を受けますし、魚たちとの触れ合いはやっぱり楽しい。水族館で毎日過ごすような感覚なんです」

橋本さんが毎日の飼育を担当しているナベカ

各部員に生き物の世話と水槽のメンテナンスが割り当てられ、橋本さんは全長7~10cmの海水魚「ナベカ」の担当だ。「ずっと飼育するうちに、同じナベカでも1匹1匹に個性があるのに気がつきました。指から餌がもらえるのを学習して、僕が指を水槽に近づけるだけで側に寄ってくる。その行動がめっちゃかわいくて、ナベカ担当は変わりたくない(笑)」

クラゲ研究に没頭、手軽な解毒方法を探す

魚の餌やりや水槽の清掃を終えると、部員たちは「研究班」「繁殖班」「イベント班」「デザイン班」の活動にそれぞれ取り組む。探究心の強い橋本さんは「研究班」でクラゲの研究に没頭する。研究班は、2019年に化粧品会社と共同開発したクラゲ予防のフェイス&ボディクリーム「ジェリーズガード(JELLYS GUARD)」の商品化など、校内外で広く活動する。

部内では研究班に所属して、クラゲ研究に取り組む。研究成果は論文やポスターにまとめ学内外で発表する

現在、橋本さんは新たにクラゲの毒の研究をするべく準備を進めている。きっかけは、小1から続けているライフセービングだ。「中学時代に、ビーチ監視のボランティアを経験した際、多くの海水浴客がクラゲに刺されてしまいました。応急処置としては、刺さった触手を抜く、温める、冷やす、お酢をかける……とたくさんあって、どれを施せば症状が和らぐのか判断が難しいんです。個人差もあります」

専門医でなくても、ビーチでの手当てに誰でも使えるものがあれば。「クラゲの解毒に効果的なものを探していきたい」と研究への熱意を見せる。

高1のときライフセービングの競技大会に出場する橋本さん(本人提供)

魚の魅力をお客さんに熱弁、気づけば40分

毎月第3土曜日に一般公開される長高水族館(事前予約制)では、各部員がガイド役を務める。「ハマチの輪くぐりショー」や「イシダイのサッカー」なども行い、盛況を博す。部員たちにとっても一大イベントだ。

中学までは消極的な性格だったというが、「長高水族館で多くのお客さんと話す機会が増えて、コミュ力が磨かれたのを感じています。よりお客さんに楽しんでもらえるよう面白い解説をしたい。そんな積極性も生まれました」。

会話のテンポ感や楽しさを心掛けながら、来場者に魚の魅力を伝えている。「初めてナベカを観賞して興味をもってくれた男性客がいたんです。ナベカのかわいらしさについて40分くらい話し込んじゃいました」