右膝下を事故で失った吉本晶琳(ひかり)さん(京都・京都橘高校2年)は、お尻を床につけたまま行う「シッティングバレーボール」日本代表の最年少メンバーだ。昨年は国際大会で2度の銅メダルに輝き、今年4月に行われるパリ・パラリンピック最終予選に向けて練習を重ねている。(文・写真 木和田志乃)

交通事故で右膝下を切断

元バレーボール選手の木村沙織さんに憧れ、小学4年生から地元のチームで週4回、バレーボールに打ち込んだ。「日本代表に入りたい」と思ったこともある。バレー少女だった吉本さんは、5年生の秋、全国ニュースになるくらいの大きな交通事故に遭った。

日本代表のユニホームを着用する吉本晶琳さん。競技に出会い「いろいろな世代の選手と接して視野が広がった」と話す

心臓を手術し、人工透析も受けた。右足の膝から下は切断した。意識を取り戻した時には「衝撃が大きすぎて」現実を受け止められず、「悲しいとは感じなかった」と振り返る。

「(事故前に)どうやって歩いていたのかも思い出せなかったし、足はまた生えてくると思っていた。でも、生えてこないとわかってショックだった」

入院生活は半年に及んだ。退院後、6年生になってからもリハビリに通うため、通学できた日は半分もなかった。長いリハビリ生活の中で医師や医療スタッフとのおしゃべりが楽しみになり、少しずつ元気を取り戻していった。

「私が活躍できる場所」に出会った

中学入学後は体育の授業も受けた。「できることはすべてやらせてもらえる学校だったので」できないことはあったものの、「事故前より運動能力が高まった気がする」までに回復。体を動かす楽しさを再び味わえるようになり、体育の授業が好きになった。

そんな中1の秋、担当医と話す中で「東京パラリンピック」の話題が出た。これをきっかけに、「やりたいことを見つけよう」と、パラ陸上用の義肢や装具を試すイベントに参加した。この時に知り合った大学教員に誘われ、京都市内の「シッティングバレーボール」チームの体験会に向かうことになった。

2月の国内大会に出場する吉本さん。プレー時は「笑顔を絶やさないように心がける」が、ボールを打つ瞬間は真剣な表情を見せる(本人提供)

シッティングバレーボールとは、お尻を床につけたまま行うバレーボールで、「パラバレーボール(座位)」とも呼ばれる。プレー中にお尻が床から離れると反則となり、相手に1点が入る。一般のバレーボールよりコートは狭く、ネットも低いが、他のルールはあまり違いがない。国内大会には健常者も選手として出場できるが、パラリンピックの出場は下肢などに障がいのある選手に限られる。

吉本さんは、体験会で「楽しい。バレーボール、いいな」と感じ、早速チームに所属した。吉本さんは身長173センチと背が高く、リーチが長い。年齢も若い。国内には下肢に障害のある選手は少なく、「私が活躍できる場所だ」とも思えたという。

日本代表としてメダル獲得

2020年に入るとコロナ禍のため練習も試合もままならない時期が続いた。21年、中3になり、ようやく練習が再開。週1回3時間のチーム練習に加わった。

すぐに頭角を現し、22年1月には日本代表合宿に招集された。初めこそ「背の高さは武器。代表でもやっていける」と思ったが、「ボールのスピードが速くてなかなか慣れなかった」。回転数が多く威力が強いボールで手指を骨折したほか、練習しすぎて肩に水がたまり、練習を控えざるを得ないこともあった。

決して順調とは言えないが、日本代表では攻撃専門の選手としてチームに貢献。日本代表は昨年、国際大会で2度の銅メダルに輝いた。しかし「すごいことだとは自分の中では思わない。優勝したかった」と悔しさをかみしめる。

切断部を保護するシリコン製のライナーとカバー用ソックス。吉本さんのプレーには欠かせないアイテムだ

プレーでは苦しいことも多いが、「いつも笑顔を絶やさないようにしている」と話す。「ムードメーカーになっているかどうかは分からない」と言いつつも、チームの盛り上げに一役買っている。

シッティングバレーボールに出会い、吉本さんは変わった。普段から年長の選手と接し、国際大会では海外の選手とも英語で会話する。もともと自分のことはあまり話すタイプではなかったが、こうした経験を通じて以前よりも話すようになった。「視野が広くなった」と自覚するほか、「やりたいことを見つけて追求することで生活が充実していく」ことも実感している。

パリ・パラリンピックを目指して

当面の目標はパリ・パラリンピック出場だ。出場できるのは8カ国。うち7カ国はランキング上位の国に決まっている。4月には7カ国による最終予選が始まる。最終予選で出場権を獲得できるのは、1カ国だけだ。ランキング10位の日本が出場権を獲得するのは「簡単ではない」(吉本さん)。

将来の夢は医師になることで、平日は5時間勉強している。しかし、机の上には常にボールが置いてあり、大会に向けてはトスの練習を欠かさない。「私はトスがすごく弱いので、オーバーハンドトスの練習を勉強の合間を見つけてやっています」

それ以外に、ブロックとスパイクも強化ポイントに挙げる。「ヨーロッパ勢は私よりも背の高い人の集まり。ブロックで負けないように体幹を鍛えています」

普段から視野を広くして、スパイクはコースを狙うことを心がける。相手選手の背の高さにつられて、ブロックする時に「ついついお尻が浮く」反則を減らす。課題を克服し、1位になってパリに行くつもりだ。

よしもと・ひかり 2006年8月15日生まれ。京都橘中卒業。京都おたべーず花子所属。2023年、アジア・オセアニア選手権大会、杭州アジアパラ競技大会3位。趣味は音楽鑑賞。最近はMrs. GREEN APPLE やYOASOBIがお気に入り。「転生もの」の漫画をアプリで愛読。