豊川(愛知)水泳部は、今年の全国高校総体(インターハイ)で男女ともに総合優勝を果たした。ジュニア日本代表選手が在籍する強豪校は、水中のみならず、陸上での練習にも積極的に取り組んでいる。(文・写真 田坂友暁)
全国を制した選手も、全国まで届かない選手も一堂に会し、学校の隣にあるプールで練習している。
練習では毎日テーマを設けている。短い距離をスピードを上げて泳ぐ日があれば、長い距離をこなして持久力を高める日もある。取材日は、泳ぎのフォームを整える練習をしていた。部員は100㍍×10本のうち、3本はフォームを整えることを意識し、残り7本ではフォームを保ったままスピードを上げた。
大会が多い夏に向けて体力を付けるため、冬場はひたすら泳ぐ。1日に1万8000㍍ほど。個人メドレーでインターハイ決勝進出を目指す伊藤大智(1年)=愛知・岩倉中出身=は「練習を難なくこなす先輩の強さに驚きます」と話す。全国優勝クラスの泳ぎを見ながら練習できるのは、上を目指すためには最高の環境だ。トップレベルの選手も、ほかの選手たちの見本となるために常に全力で臨む。それがチーム全体のレベルアップにつながっている。
プールから上がると、陸上トレーニングに取り組む。メディシンボールやダンベルを使って体幹の強化に励む。1分間行って20秒休憩というサイクルを、20分ほど続ける激しいトレーニングだ。背泳ぎが専門で女子主将の瀬下茉利(3年)=同・形原中出身=は「体幹が鍛えられたので、泳ぎが安定しました」と効果を実感している。
ほかのチームより強くなりたかったら、それ以上やるのが豊川流。深田大貴監督(42)は「例えば、腹筋を30回やるチームがあったら、じゃあうちは50回だよな、という感じ」と言う。陸上で思うように体を動かせないと、水の中でも動かせない。だからこそ、陸上トレーニングを重要視する。
チームの結束力の強さも、部の躍進を支える要因だ。深田監督は「水泳をチーム競技として捉えています」と語る。瀬下は、女子がインターハイで初めて総合優勝できた理由を、「『昨年も総合優勝した男子に負けない結果を残そう』と、みんなで話して結束力を高めた結果」と話した。先輩後輩の厳しい上下関係もなく、チームが一丸となってつかんだ栄光だ。 豊川の快進撃はまだ始まったばかり。来年のインターハイでも男女総合優勝を目指す。
自ら考え行動できる選手に 深田大貴監督(42)
高校時代は、体も心も泳ぎもジュニアからシニアに切り替わる大切な3 年間です。だから選手がより成長できるような環境を用意して、質の高い練習と考え方を身に付けさせたいと思っています。
その一つが陸上トレーニング。疲れて「もうできない」ところまで体を追い込んで、そこから踏ん張らせる。そこでしっかり体を使う意識を持てるようにならないと、レースの苦しい場面で耐えることはできません。
また、1 から10 まで教えるのではなく、自分で考えさせるようにしています。それが自主性につながり、人間的な成長につながっていく。自分で考える力と、目標に向かう姿勢が人を成長させます。
それは学業でも同じこと。水泳で結果が出始めると、自信が付いて勉強の成績が伸び始めます。勉強を頑張り始めた選手は、水泳でも記録が伸びる。
自主的に行動し、チームとしての意識を持ち、仲間同士で切磋琢磨し合う選手に育てるのが豊川です。それは将来、社会人になったときにも必ず役に立ちます。水泳だけが強い選手ではなく、人間的にも強い選手に育てるために、部長の小池隆治先生も私も、中途半端な気持ちは全くありません。選手が「自分は豊川高校でやってきた」という自信とプライドを持ってくれるとうれしいですね。
- 【深田大貴】
- 1970 年生まれ。豊川OB、中京大卒。数多くのインターハイ優勝選手を育てる。2004 年から監督を務める。