第46回全国高校総合文化祭(とうきょう総文2022)の演劇部門が8月に開催された。全国の演劇部から選ばれた代表12校の演劇作品が上演され、松山東高校(愛媛)演劇部が日本一に輝いた。同校は、8月28日に東京の国立劇場で開かれた優秀校東京公演の舞台にも立った。(中田宗孝)

演劇部の大会リハを描く

同校の上演作「きょうは塾に行くふりをして」(作・越智優、曽我部マコト)は、とある高校の演劇部がコロナ禍の中で挑む大会の前日リハーサルでの出来事をコミカルに描いた。

観客席側の照明を60%点灯させたままの演出の中、幕があがる。急ピッチでリハ準備を進めながら、部員らの演技はもう始まっている(8月26日、優秀校東京公演リハーサル)

物語は、劇中劇の舞台監督を務めながら、リハを欠席した部員の代役もこなす女子部員を中心に進む。塾をサボり、助っ人でリハに参加する演技未経験の男子生徒は、気になる存在として目が離せなくなるキャラクターだ。

「(タイトルだけ見ると)塾の出来事かと思っていたら全然違っていて。どんなリハーサルの様子になるんだろう、物語が作品タイトルとどうつながっていくんだろうと、ワクワクしました」。出演者の一人、菊池ひよりさん(3年)が、脚本を初めて読んだときの印象をそう振り返る。

役のリアリティを追求

終盤、ある報告が舞台上の演劇部員に伝わるのを機に、コメディ色の強かった物語のトーンが別の方向へと大きく舵を切る。そこからのシーンは、昨年から始めた作品づくりの稽古でもっとも時間を割いたという。

作品の1シーン(8月26日、優秀校東京公演のリハーサル)

菊池さんは、「私が演じる役、他の登場人物たちがどんな気持ちで(劇中の)リハーサルに臨んでいるのか考えました。自分の中でどれだけリアリティをもって演じられるかが大事」。脚本には書かれていない、「劇内の演劇部員」たちの普段の部活の様子をエチュード(即興劇)で演じてみて、作品の完成度に磨きをかけた。

日高さん(左)と菊池さん。国立劇場のバックヤードで

コロナでのつらい思いを前向きに

3年生7人は、作品の完成度を高めるために自主的に集まり話し合いを何度も重ねた。日高万歩路さん(3年)は、「私たち3年は、今作の仕上がりに物足りなさを感じていたんです。だから『きょう塾』の過去公演の映像を観ながら、『この章は面白いね』『このシーンはこんな演技がいいんじゃない』と、自分一人では気がつけない改善点をたくさん議論しました」と明かす。

夕べの地平線の向こうに見えるのは…。リハーサル風景を描くため、同じシーンが繰り返されるが、物語が進むにつれ同じシーンの印象が驚くほど変わる(8月26日、優秀校東京公演リハーサル)

議論は白熱し、意見が割れ、一つの明確な答えは出せなかったが、確実に何かが変わった。「第三者の視点を知ったことで、私は自分が演じるキャラクターについて多面的に考えられるようになりました。それは他の3年部員も同じだと思う。新たな表現方法に気がついて、そこから『きょう塾』の出来が一段と深まったんです」

3年生部員は、高校入学時からコロナに翻弄された。練習は制限され、学校内外で公演の場が奪われてきた 。それでも日高さんは「私の演劇部生活は満点以上」だと胸を張る。

「コロナ禍だったからこそ『きょう塾』が生まれ 、楽しく演じられた。『きょう塾』は、私たちと同じようにコロナでつらい思いをした人たちを前向きな気持ちにさせてくれる劇なんです」

部活データ
50年前から活動の記録あり。部員25人(3年生7人、2年生5人、1年生13人)。視聴覚室にて週5~6日活動。「いばらき総文2014」の演劇部門で全国初出場を果たし、「夕暮れに子犬を拾う」を上演

Eテレ「青春舞台2022」

「とうきょう総文2022」演劇部門・最優秀賞受賞作品「きょうは塾に行くふりをして」をノーカット放映。9月23日[金・祝]24:30~(※木曜深夜。再放送11月5日[土]14:00~)