文化部の全国大会「全国高校総合文化祭(今年はとうきょう総文2022)」の演劇部門に5年ぶり2度目の出場を決めた日立第一高校(茨城)演劇部。全国大会でも、地元の茨城県はじめ、各都道府県を擬人化したキャラクターが織りなすコメディ作品で笑いを届ける。部長、副部長が、普段の雰囲気や作品づくりを振り返りながら、意気込みを語ってくれた。(文・中田宗孝、写真・学校提供)
部員全員で一緒に下校
「温かい雰囲気の部です」と、副部長の喜久川綾香さん(3年)は教えてくれた。部活が終わると、先輩後輩の垣根なく部員全員で一緒に下校するのが日常だ。
帰り道での話題は、テストや趣味のこと、今日の晩ごはん…。「“JK”の会話です(笑)。本当に普通の話しかしてませんが、部員同士を知る、コミュニケーションの時間になっているし、演劇にも活きているんです。稽古では、先輩部員に壁を作ることなく、後輩からも積極的にアイデアや意見が出てきます」(喜久川さん)
部長の高野心暖(こころ)さん(3年)も部員の仲の良さが、作品づくりに繋がると話す。「(『とうきょう総文2022』上演作で)私は演出担当なのですが、役者としても出演しています。稽古中に私が演技をしているときは、他の部員が演出の役割を自然に担ってくれて、さまざまな提案や指摘が飛び交います。部員全員が演出ですね」
スクールカースト×都道府県魅力度ランキング
1月、演劇部の全国大会にあたる「とうきょう総文2022 演劇部門」(7月31日~8月2日開催)への出場を決めた。上演作は、高野さんが脚本を手掛け、主演も務めた「なぜ茨城は魅力度ランキング最下位なのか?」。インパクトのあるタイトルが目を引く、コメディ作品だ。物語は、“スクールカースト”が根づく高校の新入生「茨城多栄子」の学校生活を描いていく。
学校にはカースト上位の“東京の子”や“大阪の子”がいる。茨城多栄子は、友人の“佐賀の子”に支えられながら、怒涛のスクールカーストの中を懸命に生き抜こうとするが――。
「脚本の題材を探してたとき、『都道府県魅力度ランキング』の47位が茨城県という話題を知りました。私たちは茨城県民、これって演劇のストーリーとしては、とっても魅力的じゃないか!と思ったんです。そこから想像を膨らませて、各都道府県の特徴を擬人化するアイデアが生まれました」(高野さん)。物語のプロットを聞いた喜久川さんは、「ランキング最下位の茨城県を主人公にするって面白い。茨城に住む私たちだからできる、やるべき劇だと思いました」と振り返る。
「絶対に全国に行きたい!」
地区大会を目前にした昨年9月、部員たちの稽古疲れがあらわになり、作品づくりが思うように進まない時期があったという。この状況に危機感を抱いた高野さんは、自らの思いの丈を部員たちに伝えた。
「私は最後だし。去年も悔しい思いをしているし。だから絶対に全国に行きたい!」
実は、同部は一昨年の大会で、県大会に進めず地区大会止まりに終わっていた。高野さんはじめ部員の誰もが自信を持って大会に臨んだだけに、その悔しさは大きかった。「あのときの悔しい経験に苦しみながら演劇を続けてきました。…全国に行きたいと思いました。全国に行けるような作品を作ろうと、初めて脚本を書き、主人公を演じます。この作品に私は賭けていました」
高野さんの言葉は、部員たちを焚きつけた。「心暖がみんなに発破を掛けてくれて、私も頑張らないとなって。“あのときの悔しさ”思い出させてくれたし、全国に行きたい強い気持ちを引っ張り出してくれたんです」(喜久川さん)
観客がキャラのファンに
大会本番では観客の声を力に変えた。「客席から悲鳴のような笑い声があがったり。自分たちの演技が届いてるって感じましたし、役者としての自信にもなりました」(喜久川さん)。各公演の終演後に届く、観客からの感想コメントも励みになった。「『茨城多栄子が好きです!』とか、各キャラクターのファンになってくれるんです。喜久川さんの演じる『謎の男』のファンが公演毎に増えていて羨ましい(笑)。茨城多栄子ファンをもっと増やしたい!」(高野さん)
「とうきょう総文2022」では、「楽しくて笑える1時間を提供したい」と、喜久川さんは意気込む。「茨城多栄子が初登校する教室のシーンは、部員たちの突飛なアイデアがたくさん盛り込まれているので、ぜひ楽しみにして欲しいです」
8月、全国の舞台へ
高野さんは、授業が終わると全速力で練習室に向かっていた1年生のころの自分を思い出す。「入部当初は、こんな青春を味わえるなんて思ってもいませんでした。当時の気持ちは今も変わらず、私は演劇や部員のみんなが大好き」
「“長い旅”になるといいね」。地区大会前、顧問の先生が部員たちに伝えた言葉は現実となった。地区大会、県大会、そして関東大会を突破し、上演作「なぜ茨城は魅力度ランキング最下位なのか?」は、いよいよ全国大会での公演を迎える。
「一つの作品をこんなにも長く演じることができて、幸せな時間が続いています。(全国大会は)もうやってやるって気持ちだけ。私にとって、この作品は人生の一部で、誇りで、青春になりました」。8月、部員たちは、全国の舞台を全力疾走で駆け抜けていく。
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部活データ 昭和22~23年頃から活動記録あり。部員10人(3年生5人、2年生3人、1年生2人)。校内の旧定時制給食室にて週5日活動。「みやぎ総文2017 演劇部門」で「白紙提出」を上演し、優秀賞・文化庁長官賞を受賞