高松商(香川)女子ハンドボール部は、昨年8月の全国高校総体(インターハイ)と10 月の国体で2連覇。「堅守速攻スタイル」で勝ち続ける強豪は、時間を有効活用しながら徹底的に判断力を磨いている。(文・写真 白井邦彦)

時間の切り替えを意識

学校から約2㌔離れた工場敷地内の一角。冬は海からの寒風が吹き付け、夏はめっぽう蒸し暑い土の屋外グラウンドが練習場だ。体育館は他の部が使用しているため、雨の日は校内で体力づくりをするしかない。

環境の制約がある中、部員は有意義な時間の使い方を意識して練習に臨む。前主将でインターハイ2年連続得点王の谷華花(3年)=香川・香川一中出身=は「予報が雨の日は、外でボール練習だけ行い、持久走などは学校に戻ってからやる。『今は何をすべきか』を常に意識しています」と話す。

部は攻守の切り替えの早さを重視する堅守速攻スタイルを得意とする。「切り替え」「時間」は、日頃から意識するキーワードだ。例えばストレッチ後のランニングは、本数ではなく時間で区切る。軽いジョグ3分、ダッシュ3分、ランパス3分といった具合に進む。本数のノルマがないとはいえ、手を抜けば他の部員との力の差が広がるため、部員たちは常に限界に挑む。先輩たちから引き継がれてきた時間への意識と、手を抜かない姿勢は、強さを支える一つの要因といえる。

判断と実行を繰り返す

 

「ミスしたらすぐ帰れ!」「今の間違い、何千回も注意したわ。学習能力がないんか!」。3対3や6対6といった実践的な練習中、田中潤監督(44)の関西弁がグラウンドに響く。 監督は具体的な指示をあえてしない。ダメ出しされた部員たちは、何がダメなのかを瞬時に判断し、次のプレーに生かしていく。刻々と状況が変わる試合中、選手が自ら判断できなければ、得意の速攻も仕掛けられない。日頃から判断と実行のプロセスを繰り返し、堅守速攻を自分たちのものにしているのだ。

例年、引退した3年生が2月まで練習に参加することも強さの継承に一役買っている。清水麻椰(2年)=同・塩江中出身=は「3年生の当たりの強さ、攻守の切り替えの早さはすごい。自分たちの力不足を痛感する」と話す。

小細工をせず、自分たちのスタイルを貫いて全国制覇した先輩たちの実力は本物。日本一への物差しを残して去る3年生の存在は、非常に大きい。

余計なことはしない 田中潤監督(44)

 

2005 年の赴任から堅守速攻のスタイルを追求し、昨年はインターハイと国体(単独チーム出場)でそれぞれ連覇することができました。でも、優勝したのは私の指導がどうこうではなく、純粋に選手の実力です。監督の采配で勝ったと言われるのが嫌いで、対策や秘策は一切練りません。相手に研究されても、それを上回る判断力の早さと技術、走力などがあれば勝てます。

練習も基本的なメニューばかりです。ただ、限られた時間の中で勝つためには、徹底的に無駄な時間を省いて力を磨くしかない。練習前にミーティングをする時間があるなら、ストレッチをする方が有効です。注意されて下を向く暇があるなら守備に戻った方がいい。

試合の勝ち負けは一瞬で決まります。だから「自分が今は何をしないといけないか」を日頃から意識することが大切です。

たなか・じゅん
1969年、兵庫県生まれ。大阪体育大卒。全日本インカレ準優勝2回、学生選抜選出などを経験。93年から12年間、高松(香川)男子ハンドボール部監督を務め、2005年から高松商を率いる。
 
【TEAM DATA】

1975年創部。部員21人(3年生7人、2年生6人、1年生8人)。2008 年の全国高校ハンドボール選抜大会準優勝。1213年にはインターハイと国体でそれぞれ優勝。