高校卒業後は大学に進学したいという人も多いのではないでしょうか。大学での先生はどんな仕事をしているのか、工学部の教授をしている父に取材してみました。(高校生記者・ant=1年)
研究者として自らのテーマに取り組む
―どんな仕事をしているの?
教授も「研究者」。大学で研究することが、第一の仕事だよ。あわせて、学生さんたちへの教育、研究指導もしているよ。
―どんな研究をしているの?
工学部の情報工学が専門で、そのなかでも「画像認識」を専門としているよ。画像にどんなものが写っているのか、画像で個体を認識させるということを研究なんだ。
―研究はどうやってしているの?
コンピューターに画像をたくさん与えることで、画像認識の精度は上がっていくんだ。だから、画像の特徴を抽出する仕組みづくりや、学習データをいかにうまく与えるかということを試行錯誤しているよ。
また、その仕組みを実証に生かすということもやっているよ。最近は、農学部の先生と共同で牛の個体認識のシステム開発を研究している。
予定は自由に決められる
―1日の流れを教えて
講義や会議などの決まったスケジュール以外は、自由に予定を立てられるんだ。
だいたい、9:30頃に登校して、自分の研究をしつつ、講義や会議に出たり、ゼミ(学生さんの研究指導)をしたりして、切りがいいところで帰るなあ。帰る時間は20~21時くらいになるかな。研究に集中していると23時くらいになるときもあるよ。
―出張はあるの?
学会が月に1回くらいのペースで、各地で開かれるから、参加するために出張に行くこともあるよ。私は出張にはあまり行かないけれど、これも自分で決められるんだ。
国際会議で海外に行くこともあるよ。研究発表だけでなく,研究者同士の交流を図るため、また開催地のアピールのために、晩餐会(ばんさんかい)やミニバスツアーが開催されることもよくあるね。今はコロナの影響でオンライン開催が多くなっているよ。
―学会って何をするの?
学会では他の人の発表を聞いたり、自分が今、研究していることを発表したりするよ。そうすることで、自分が今、研究していることをアピールできたり、質疑応答などを通して、アイデア交換ができたりと刺激をもらえるね。
国際会議などで認められると嬉しい
―この仕事を目指した時期ときっかけは? 他の仕事と迷ったことは?
小学生のときから、研究者になりたいという思いがあったんだ。中学生のときにプログラミングを始めて、そこからコンピューターに興味を持っていったかな。
大学院に入るときに、自分の行きたい研究室に行けなかったら、就職しようかなと思っていたよ。就職先は企業の研究所を考えていたよ。
―この仕事のやりがいを感じる瞬間は?
研究成果が学術雑誌や国際会議に採録されたときだね。
論文を投稿すると、他の研究者による「査読」が行われて、論文の内容が十分かどうかを審査される。著名な学術雑誌や国際会議などでは、この審査を通る割合が低く、狭き門となっているんだ。そこを通って、論文が認められて採録となり、研究成果が日の目を見たときに一番やりがいを感じるね。
それから、指導している学生さんたちが、卒業論文や修士論文の発表を経て、卒業、修了していくときにもやりがいを感じるなあ。学生さんたちの指導は苦労も多いけど、無事、卒業してくれると、安堵(あんど)と共に達成感があるんだ。
好きなことを自由に追求できる
―この仕事の魅力は?
まず、自由度が高いこと。研究テーマも時間の使い方も自分で自由に決められる。自分の好きなことを自由に追求できるんだ。
また、研究においては、指導している先生も学生も同列で公平なんだ。何かを主張するときは、「その論が正しい」ということを証明する材料さえ持っていればいいからね。だから、上司などの関係はなく、学生さんに対しても指導というよりは、一緒に研究を作っていく感じが強いかな。
研究が好きな人にとって、研究は仕事というより趣味に近い。趣味がそのまま仕事になるから、とても楽しいよ。だから、あまりしんどさは感じないな。
―この仕事に向いている人は?
この仕事は、自分で自由に研究を進められる。でも、逆にいうと、決まった仕事がないということなんだ。だから、自分でやりたいことを見つけて、自主的に取り組んでいける人が向いていると思うよ。
労力がかかるわりに、直接的な報酬があまりない活動が多いのもこの仕事の特徴だね。だから、短期的な損得がなくても、やりがいを見つけられる人に向いているね。
アンテナ張って興味を持って
―この仕事は将来どんなふうに変わっていくと思う?
少子化によって、大学生の数が減っていくと思うから、大学教授のポストが少なくなっていくんじゃないかな。大学の予算も全体として減っていっていて、外部資金がないと活動が厳しい状況になっているんだ。
この傾向は、今後も加速していくとみられていて、資金の確保が難しくなりそうだ。また、アメリカでは、研究担当と教育担当の教員の分業が進んでいる。日本でも、同様に進んでいくかもしれないね。
―この仕事を目指す高校生がやっておくべきことは?
私や私の周りを見ていると,職業としての「大学教授」を目指したというより、研究をするためにこの仕事を選んだ人が多いように思うな。
研究者の原動力となるのは、「これを解き明かしたい!」とか「この問題に取り組みたい!」という気持ちだよ。生涯をかけて取り組みたいという対象があるからそう思えるんだ。そんな対象を見つけるのは難しい。だけど、そんなものを見つけられるように、高校生のときから社会のいろいろなところにアンテナを張って、興味を持っていくことが大切だと思うな
また、論文は英語のものも多いから、英語をやっておくことも大事だね。
【編集後記】楽しく働く父の姿を知れた
これまで私は父の仕事についてあまりはっきりとは知りませんでした。
今回、父がどういう研究をしているのか、1日の流れなど、細かいところまで改めて聞く機会が持てました。取材をする中で、父が研究者という仕事を気に入って、楽しく感じていることが伝わってきて、「自分の好きなことができているのだなあ」と分かり、とてもよかったです。
取材がなければ、父と仕事の話を真面目に話し合うこともなかったと思います。そんな時間が持てたことを大変うれしく思います。この取材を通して、父がどのような仕事をしているのか聞かれたときに、誇りを持ってはっきりと答えられるようになったと思います。