8月に開催された「第45回全国高等学校総合文化祭(紀の国わかやま総文2021)」演劇部門で最優秀賞・文部科学大臣賞(全国1位)に輝いた福岡・クラーク記念国際高校福岡中央キャンパス演劇部。上演した「FLOAT」は「生きづらさ」をテーマにした。主要キャストを演じた部員たちに、全国制覇までの道のりを聞いた。(文・中田宗孝、写真は学校提供)

和歌山県で行われた全国大会に初出場を果たしたクラーク記念国際高校演劇部

クラスから浮いてる「みんなと違う」二人

「そうか……私はウイテルんだ……じゃあもっと沈まなきゃ……」

「……沈んで彼らのところまでたどり着いて、浮かばないようにしなきゃならない。おかしいよね、そんなの」

クラスになじめず「浮いてしまう」。「FLOAT」は、そんな“生きづらさ”をテーマに、新型コロナウイルスの流行、ソーシャルディスタンス、休校、豪雨など、実際に社会で起きた出来事を織り交ぜながら、高校生たちの物語を紡いでいく。

約1年かけて作りあげてきた演劇作品「FLOAT」(作・クラーク記念国際高校演劇部)。上演中の写真はすべて、昨年12月の校内公演での一幕

アスペルガー症候群、ADHD(注意欠如・多動症)を抱える主人公の女子高校生・マー子は、転校先の学校で“浮かず”に過ごせるか不安の中にいた。彼女は、自身の自意識が生み出した2人のキャラクターと語り合うことで、心の平静をどうにか保っている。

そして、自分と同じように学校生活に息苦しさを感じていたクラスの女子生徒と親交を深めていくのだが……。

マイノリティーが抱える悩みを伝えたい

演劇作品を創作する前に、「どんなジャンルにしたいか」「作品を通して何を伝えたいか」といったテーマを、部員同士で何度も話し合う。部員たちからは「“生きづらさ”を舞台で表現したい」との声が多くあがり、新作のテーマが決まった。

主演を務めた西峰あいかさん(3年)は、「マイノリティーの方が抱える悩みを演劇で伝えようと。マイノリティーじゃなくても、誰もが少なからず『生きづらさ』を感じながら生活してると思うので、今回の作品テーマにしました」と話す。

脚本は、主人公・マー子の人物像を固めてから物語を膨らませたという。「私の演じるマー子から見える、普通の日常とは違った世界がいくつも描かれているんです」

また、「コメディーをやりたい」という部員の意見も脚本に反映させた。「自分たちが舞台上でやりたいこと全部、『FLOAT』につめ込んでます!」(部長の宮本和聡君・3年)

西峰さんいわく「存在自体がコメディー」だという、視覚障害を持つYouTuberの「ガンジン先輩」(手前)。観客からの人気も高かったキャラクターだ

不登校、LGBTQ 作品に部員の体験を投影

劇中には、レズビアンの高校生、視覚障害のあるYouTuberや引きこもりの若者といったマイノリティーの人物が登場する。

「『マイノリティー』は、とてもデリケートな問題。作品内で扱うことに反対する部員もいました。私たちの学校は、マイノリティーの生徒が多くいて、部員の中にも『LGBTQ』や精神的な悩みを持つ人がいる」

そう語る西峰さん自身も中学時代、不登校になり苦しんだ過去を持つ。今作は、部員たちの実体験を投影した演劇作品でもある。

西峰さんは、マー子の役づくりで「思いきり泣いて、笑って、怒ろう!」と、意識したと語る。

「マー子はとても純粋でとっても無垢(むく)。高校生になると、幼いころに比べて喜怒哀楽の感情を抑えがちになると思うんです。大人へと少し成長して、場に応じてあまり笑わなくなるとか。でもマー子の感情表現はすごく豊か。だから、彼女の表情やしゃべりかた、動きは誰よりも大きくなるように演じました」

同部の前回作品で西峰さんは照明を担当した。「演者に負けない熱量を持って、裏方の役割に取り組んでいました」。西峰さんは演劇が大好きだ。「私も舞台に立って演技がしたい!」。その強い思いが周囲に届き、「FLOAT」の主演に抜てきされた。

西峰さんが演じるマー子(中央)の側には、部長の宮本君扮(ふん)する「フィジカルお兄さん」(左)と「とらんぺっこ」(右)がいつも見守っている。彼らは、マー子の自意識が作り出した抽象的な存在だ

クラスから浮いてる状況を畳で表現

今作のブルーを基調とした舞台セットは独創的だ。

「FLOAT」の物語は、水面に浮かぶ1畳の畳の上で横たわる主人公のマー子が目を覚ますシーンから始まる。舞台セットは、マー子から見えている世界を具現化させたものだ。

「畳は『家』を表しています。舞台上には複数の椅子も置いてあるのですが、これは『学校』を表したアイテム」(宮本君)

劇中、マー子の学校生活のシーンも多く描かれるが、教室の舞台セットを組まなかったのには理由がある。

マー子は、学校にうまくなじめずまわりから“自分は浮いている”と感じている。そして、クラスメートたちとうまく付き合っていく行動を“沈む”や“潜る”といった独特の言い回しで観客に伝える。

水面に浮かぶ畳の上に居るマー子の状況が、彼女の内面やクラス内の立ち位置などと重なっているのだ。物語後半には、畳が水面に浮かんでいる別の大きな理由も明らかとなり、驚かされる。

稽古中の様子。水面に浮かぶ畳の舞台セットは、主人公のせりふ、登場キャラたちの行動、ストーリー展開と巧みにリンクしていく

「気持ち悪い優しさ」を打ち破り

全国大会出場をかけた、昨年12月の九州大会の3日前。稽古中に全部員を巻き込んでの言い合いに発展したことがあった。演者側の思いと、照明や音響などの裏方側の気持ちが空回りして両者が衝突したのが原因だ。

「私が演劇部に入って初めてちゃんとぶつかったんじゃないかな」と、西峰さんは当時を思い返す。

「でも、それがあって作品に懸けるみんなの本気、本当の心の部分が知れて。それまでは不満に感じたことがあっても、部員それぞれの“気持ち悪い優しさ”で見過ごされていたんです。結果的にはけんかして良かったんです」

それから大会までの練習は「今までと見違えるほど、すごく良くなった」(宮本君)。部は九州大会を突破し、初の全国大会への出場が決まった。

クラスという一つの社会の中で、生きづらさを抱えながらも必死にもがくマ―子の姿に胸打つ

「勝利雨」に励まされ

和歌山県で開催した8月の全国大会。部員たちは円陣を組んだ。みんなの気持ちを一つにする、上演直前に行う恒例の声掛け。部員の顔を見まわした部長の宮本君がつぶやいた。

「昨日、福岡、雨マーク付いてたんですよ。そういや雨ですよ!」。

その言葉に部員たちが“勝利雨”だと活気づく。これまで好結果を出した公演日近くは、なぜか地元は雨の日が多かった。

「まぁ勝てますよ。全力を出して全力で勝ちましょう。なら、いきますか。いくぞっ!」。そう宮本君が声を張りあげると、威勢の良い掛け合いが始まる。

「目指すは?」「頂上!」「全国!」「優勝!!」

「目指せ、全国制覇!」有言実行に

「全国での演技を終えたときは、『頑張った~』じゃなくて『燃えがらになるまでやりきった~!』という気持ちになりました」(西峰さん)

上演作の主演、マイノリティーを持つ難役を完全燃焼で演じきっての言葉だ。宮本君は、「誰よりも真摯(しんし)に作品と向き合い、稽古でも常に全力。うちの部で一番演技がうまいです」と、彼女の努力をたたえる。

顧問の先生から演技で指摘を受けたことはすべてメモに残し、部活を離れても台本を読み込む西峰さんの姿を宮本君は知っている。「演劇がめっちゃ好きなんだなって伝わってきました」(宮本君)

部長の宮本君(左)と西峰さん。「部員からの意見を偏りなく均等に耳をかた むけてくれる。部員みんなを愛してるのが伝わる部長なんです!」(西峰さん)

全国1位の最優秀賞受賞の瞬間、西峰さんは「信じられない驚きの気持ちと、有言実行できたんだ……」と感じていたという。

普段の練習終わりには、部員全員で「目指せ、全国制覇!」と叫んで締める。西峰さん、宮本君らが高1のころから続けてきた習慣だ。「その掛け声をいつも先導してくれる担当の先生もいるんです(笑)」(西峰さん)

全国大会初出場で初優勝。まさに有言実行で全国制覇の願いを叶え、舞台の幕を下ろした。

全国大会本番前、部員たちは円陣を組んで優勝を誓いあった

 

青春舞台2021

9月18日(土)午後2:00~、Eテレで「紀の国わかやま総文2021」で上演した「FLOAT」がノーカットで放映される。