私の父は「演劇プロデューサー」をしていますが、どのような仕事か知らない人も多いと思います。父に、仕事の内容や演劇のこれからについてインタビューしてきました。(高校生記者・あかり=1年)

たくさんの職業の人と舞台を作り上げる

―仕事内容は?

一言でいうと「演劇を作るうえで、こういう舞台を作ろうと一番最初に声を上げること」かな。

例えば好きな小説や漫画・アニメ、海外で書かれた戯曲など、「いま上演したら面白そう!」と思う題材を見つけて企画し、実際に上演を実現するのが主な内容だね。

あかりさんとお父さん

―どんな職業の人と仕事をするの?

演劇は1つの公演だけでも20から30人以上、大きな公演だと100人以上の人が関わっているから、本当に多くの職業の人がいるよ。

特に関係が深いのは、中心となって作品を作る俳優と、映画でいう監督の立場に当たる演出家だね。演劇で一般的に「舞台監督」と呼ばれるのは、裏方をまとめる立場の人のことで、演劇作品の監督は「演出家」なんだ。

大学時代に作った劇団がきっかけ

―この仕事を始めたきっかけは?

一番大きなきっかけは大学のクラスメートが劇団を作ったことかな。初めての公演はすごく小さな劇場だった。でもだんだんとそれが大きな仕事につながるようになってきて、今の仕事につながっているよ。

セットを決める際に使う舞台模型

―この仕事をするうえで必要な能力は?

たくさんあるけど、特に大切なのは「コミュニケーション能力」と「芸術領域全般への幅広い知識」。

演劇プロデューサーは別の言い方をするなら「人と人をつなげる仕事」とも言える。狭い業界だから、「知り合いの知り合い」みたいなつながりもあるし、選択肢の幅が広がるからね。

演劇も芸術分野の一つ。演劇に限らず、芸術への広い知識がある人の言うことには説得力があるし、ついていこうと思いたくなるからね。新しい企画を作る時も、知識があるほうがアイデアが膨らむと思うよ。

夢や希望を与えられる

―仕事の魅力は?

なにより自分の一つのアイデアが多くのクリエイターやスタッフを巻き込んで一つの作品になり、それを上演することでさらに多くのお客さんを巻き込んで一人一人に夢や希望を与えられることかな。

演劇のようなライブ・パフォーマンスの一番の魅力は、舞台上のパフォーマーと客席のお客さんが時間と空間を共有することだと思うんだ。その「場」を自分のアイデアが起点となって創り出せるのはすごく面白いことだと思うよ。

上演前の舞台上の様子

―やりがいを感じた瞬間は?

観客の方々がスタンディングオベーションとかしてくださっているのを裏から見ているときかな。

数年前に小さなメモ用紙1枚から始まったことが、大きな劇場で上演されて、多くの人の心を動かしたのだと実感したときはすごく誇らしい気持ちになるよ。

―仕事の厳しさは?

芸術性と経済性のバランスをとることかな。芸術のことを考えるのが演出家や脚本家の仕事なら、お金のことを考えるのがプロデューサーの仕事。例えば出演者が多い方が大がかりな演出ができるし舞台上で迫力も出せる。

でも、人を1人雇うとそれだけ多くの費用が掛かるよね。演出家と協議しながら最適な人数で最高の表現を目指す。芸術性を取るのか、経済性を取るのか、そのバランス感覚がとても大事だと思う。

コロナ禍で変わる演劇の形

―コロナ禍の現状を教えて

演劇のようなライブ・パフォーマンスの一番の魅力は「時間と空間の共有」だけど、それはコロナ禍での最大の弱点だよね。それが演劇の魅力であることが問題なんだ。

しかし、一度失われたからこそ人々が尊さを認識し、求める声は大きくなっている。いまは、緊急事態ネットワークという団体を作って、配信やテクノロジーで時間と空間を超越するような方法を探っているよ。

舞台上でセットを組み立てているところ

―コロナ後はどのように変わっていくと思う?

(オンライン配信を組み合わせた)ハイブリッド形式がもっと普及すると思うよ。

例えば、今年も緊急事態宣言で公演がまた中止になってしまったけど、配信ができた公演があったんだ。その公演で「劇場で見たときは迫力があったけど、配信は細かいところまでよく見えて違う面白さがあった」「地元では上演されてなかったので見れると思っていなかった」という感想があったんだ。

さっきも言ったように、演劇の魅力が「時間と空間の共有」なら、配信の魅力は「時間と空間の超越」だと思う。お互いに強みを補完しあう関係にあるね。

ハイブリッド形式を上手に活用できれば、演劇の魅力をもっと多くの人に伝えられると思うよ。

アートを身近に取り入れて

―この仕事を目指す高校生がいまやっておいたほうがよいことは?

まずは本を読むこと。

小説でも新書でも、人類が蓄積してきた先の人間の経験を得ることができることは後で生きる世代のメリットだからね。とにかく多くの知識を頭に入れることが大切だと思うよ。

そして、できるだけ芸術に触れること。

演劇だけでなく、絵画や映画など、小さなことでいいからとにかくアートを身近にすること。音楽を習う、本や新聞を読む習慣をつけるなど、生活の一部に取り入れることが大切だよ。

父の会社の本棚の一部。劇関係の本だけでなく、小説や新書も多い

それから何にも臆せずに挑戦してほしい。僕も大学のクラスメートが始めた劇団に誘われて入ったことが、今の仕事につながっている。

いま一緒に働いている人の中には当時の同級生も多くいる。ぜひ、「迷ったら一歩踏み出してみる」という姿勢を大切にしてほしいな。

【編集後記】興味を持ったらまずは一歩踏み出す

今回取材して、父が仕事にすごく誇りを持っているんだなと感じました。

自分のアイデアで多くの人の心を動かせる、と聞いてとても興味がわいたしかっこいい仕事だと思いました。

新型コロナウイルスで、なかなか思うようにはいかないこともあると思いますが、興味を持ったらまずは一歩踏み出す、という姿勢を大切に、高校生活を過ごしていこうと明確な目標を持つことができました。